ゲーム作りで「第1世代目はなぜ一線級を保ちつづけるのか?」と、そのなり方、落とし穴
モノづくりの2つの世代の違い
私は、モノづくりの中では2種類のタイプがいて、それは大きく違う性質を持っていると考える。2つの人は初期値としての才能や能力は大きく違わない。だが、5年10年と進んでいくにつれて差がとても大きくなっていく。
違いはこれだけである。ただ結果として、チームリーダーやコアメンバーは第1世代に任され、第1世代のビジネス経験がより強化される。第2世代は、専門性を磨いていけばいつかは自分も第1世代みたいになれる筈と思いながら、いつまで立っても何故かなれない。いつしかあの人は特別だ、または、自分には才能がなかったと勘違いをしてしまう。
第1世代の最初は、すべてが足りないし、わからない中で行うため、足りないものはとりあえず自分でやってみるというのをやってきた世代である。テキストを書いたことがないけど、書いてみる。企画をやったことないけどやってみる。ストーリーを作ったことがないけどやってみる。絵を書いたことがないけど描いてみる。ビジネスがわからないけどやってみる。わからなければ本を読めばいい。わからなければ知ってる人に聞けばいい(いないことが多いが)。わからなければ検索すればいい。どこかにできる人間がいるなら、30点くらいのものなら自分でもできるはずだ。
でもこのやり方は、すべての人ができるわけではない。当然たくさんの脱落者を生みつつ、一握りのサバイバーを生む。これが第1世代だ。
ただ第1世代だけでは当然スケールできない。なので、自分が学んだ分野を分割して、ある程度のシングルスキルで実行できるように整える。組織化というものだ。このやり方は、圧倒的に生存率をあげ、量産工場を作ることができる。中の人はシングルスキルを磨くことになり専門化する。安全な生存率の代わりに自分でレールを作るという視点は持てなくなる。第1世代がその場にいる限り、レールを自分で作るというニーズは生まれない。
全体感を持った人をどのように増やせばいいのか?
前回は、「ゲーム開発でなぜ全体感を持った人が増えないのか?」という話を書いた。そこで、今回は全体感を持った人をどのように増やせばいいのか?という話をする。これはゲーム開発に限らず、あらゆる分野で使える話だと考えている。
ゲーム開発でいうと全体感を持った人というのは、例えば
みたいなものを理解している人間である。
全体感を持った人をどのように増やせばいいのか?という質問の回答は、外的環境型アプローチではなく、個人での戦略になるが
で全体感を持った人になれる。
第1世代へのなり方(新規市場へ行く)
映画業界が、TV業界を見下したように。
クラシック音楽業界がロック音楽を見下したように。
小説業界がラノベ業界を見下したように。
ラノベ業界がなろう系小説を見下したように。
コンシュマーゲーム業界が、ソシャゲ業界を見下したように。
小説業界が漫画業界を見下したように。
組み込み業界がWEB業界を見下したように。
TV業界がネット業界を見下したように。
新規市場は、既存市場からバカにされ見下される。
そしてその後の歴史をみると、ユーザーが増えるにつれて人々に認められていくのがわかる。ただ認められていく前に既存の業界/プレイヤーに見下されることは、他業界で活躍するベテランにとって心理的な参入障壁として機能する。作れる人が参入せず、一人で全部をやることになるため、結果全体を理解して成長をする。なので、見下してくれることは悪いことだけではない。新しい世代の成長チャンスとして機能をしている。
この話はゲームの制作論というよりは、スタートアップ論に近いものである。なので既に評価の決まった特定の大作ゲームが作りたい人にとってはあんまり役にたたないものだ。ただゲームは他のメディアに比べて表現の幅が大きいため、似たような現象が局所的に起きることが多い。新ハードやデバイス、新環境、マネタイズモデル、インバイトモデル、新しいメカニクスのゲームの出現によって、時代がひっくり返ることがある。その時は似たような効果が現れるので、チャンスである。
第1世代へのなり方(マルチスキル獲得)
第1世代は、そのタイミングで結果として生き残っただけなので、再現性があるわけではない。その人が合うか合わないかもあるし、そこまでしてやりたいこと、なりたいものがあるならやればいいと思う。
ただ、作り手としては第1世代には圧倒的な強みがある。必要な分野を垂直統合できる能力だ。別にすべての分野を極めなくても良い。実工程自体は専門家に外注できる。認識できて分野のボトルネックがわかれば良い。これこそが「ディレクター」そのものの能力であり、成果の根幹である。
新しい分野に飛び込むというのは、リスクが高い。趣味でやるでもよいし、他の人が気にしていない小さな分野の話でもよい。そこを複数分野にまたがって統合体験をすることで、統合分野を広げていくことができる。それを複数回行うと、統合や分野跨ぎに対しての知見が溜まってくる。それを必要な範囲で広げ、使えば良い。誰も行っていない新しい組み合わせで統合を行うと、それは01と呼ばれ「新しいものを作れる人」になる。
01とは、ベンチャーの社長が現場にいないでやりたいといってできるものではなく、ジョブズのマネをしたらできるものではない。
実際に3分野くらいやってみると、脳内で抽象化されるようになるため、別の分野も推測しやすくなるのである。ただ、これは体験をしただけではだめで、意識的な抽象化が必要になる。お仕着せの作ってみた(新人研修でそれっぽいゲームを作る等)ではこれが発生しない。なので、自分の意思でやる必要がある。ある種、多数の失敗を分析して成功を探索することなのだ。
今までは前提として1人という形で書いたが、これはチームで行っても良い。現実的には数人のマルチスコープ/マルチスキルの人間が集まって、溶けるような開発をすると新しいものが生まれる。
写真は、技術の創造と設計の17pより引用
これの若い組織がほぼ私の言っていることと同等だ。
幸いなことに、ゲームはものすごくたくさんの分野をまたがったメディアである。やりたければ、新しい分野を足すことも許容されるメディアだ。組み合わせは無数にあるし、組み合わせの第一人者はなろうと思えばそれなりになれる。
探せば現状でもチャンスは転がっていたりするし、目をつぶって現状を嘆くのも自由だ。チャンスを探して外に行くのも自由だし、安定を欲して外に行くのも自由だ。
第1世代がなぜ1線級を保ちづづけるか?
過去の経験からくる、メタ分野の抽象化と知らない分野を学べば学べるという自信から、素早く実行できるため強い。そして前回の記事でも言ったように、成功者に対してネットワーク効果でますます経験が積まれ成功率があがり、成功に対するハロー効果で他人に対する説得力が生まれるのだ。そして規模が大きくなった状態ではそのような実績がある人に任される。
ただ、最初に述べたように、好き嫌いはあるので、嫌いな分野は進みたくないものである。これは生き方の話なので、仕方ない。若い世代はそこを突いてくれればいい。
第1世代の落とし穴と弱点
第1世代になったからと言って、無限に何でもできるわけでもないし、能力の限界はある。それ以外の心理的/物理的な罠を紹介しておこう。これは、知ることで予防になるかもしれない。これは誰にでも陥ってしまうかもしれない罠であり、若いうちに経験をしておくほうが免疫ができて良い気はする。
[罠1] アルファ酔い
人間にはアルファオス(群れのトップ/男女限らず)という猿時代からのモードがあり、ボスモードが起動すると、ドーパミンとアドレナリンがドパドパでて、生きてるだけで全肯定されるみたいなモードが有る。
今までそれほど成功したことがなかった(慣れていない)、初めて成功した人がなりやすい。俺は天才だ!と思って調子にノリすぎて、周りとのコミュニケーションが壊れ、とはいえ成果も出ているので他の人も誰も突っ込めなくなってしまうパターンだ。
また、このモードでは行動力は上がるが、フレームの学習ができなくなるという大きな問題がある。自分は認められているから学ぶ必要がないみたいな体感になる。これも問題である。
[罠2] カリスマ化
これはアルファ酔いをしなくても、周りの人間があの人が言っているのだから正しいとしてしまって、コミュニケーション不全が生まれてしまうパターンだ。本人はボトムアップでみんなで意見を出し合いながらやりたいつもりなのに、周りの人がカリスマ扱いをしてトップダウンとしてみなされてしまう状態だ。本人はトップダウンを頑張ってやるが、本質から離れてしまうため無力化する。
[罠3] 孤独化
罠1と罠2からの発展形である。コミュニケーションがうまくいかなくなるため、何度かトライをするがやがて他人を諦めてしまう事がある。そうすると似たような人間同士が集まって愚痴るみたいなコミュニティができたりする。カリスマ系社長が良くなる。なりたかった方向とは真逆だったりするので、絶望感はある。
[罠4] 年齢
これは人間だれしもがやってくるものではあるが、今の時代は保守に回ると強みが数年でなくなるものだ。どんな技術やビジネスも日進月歩で陳腐化する。そのため肌感を維持するためのアップデートを行わないとあっという間に老害になる。今の科学では70歳や80歳まで人間は成長すると言われている。歳をとったからで諦めるのは簡単だし、保守的によるのはある程度は仕方ないが、「なんのためにここにいるのか」を忘れてしまっては本末転倒である。
以上4つほど上げておいたが、うち3つは人間の本能は強いリーダーを求めているのが原因で起きている。人間としての本能と、ものづくりとしてのコミュニケーションがコンフリクトを起こしてしまうのだ。これを防ぐためには、組織文化的なアプローチが必要になるだろう。
また、もともとトップダウンの系統は上記には当てはまらない事が多い。上記はあくまでも統合型クリエイターのかかりやすい罠である。
プレイヤー別戦略まとめ
今まで書いてきたものを、プレイヤーごとに分けてまとめた。
新しい参入プレイヤーと、既にいる既存プレイヤー、業界としてまとめてみた。
ここに書いたものは、ゲーム業界に限らないと思うのでたくさんの新プレイヤーまたは業界の方の参考になるとよいと思う。