波紋

水音の思い出

母が生まれ育った家には通用口(正式な玄関は横にあったがそこから入った記憶がない)から入って直ぐに大きな土間があってそこに大きめの樋があって湧き水を引いてあって大きな石の水槽へ注ぎチョロチョロとした水音がしていた。土間といっても私が知る頃にはコンクリート敷きだった。その頃はもう辞めていたしそもそも大分に大人になってから知った事だけど、以前は人を使って紙漉きをしていたらしい。ああ、あれは紙を晒したり漉いたりするための水槽なんだな、って理解した。

お盆とか泊りがけで行くと親族やら人が沢山集まっていて今から考えると仕出し屋から取り寄せていたのかな? それなりの御膳が用意された。この頃の主人(あるじ)は道楽で池に食用の鯉がいてそれを鯉こくにしたりして皆に振る舞うような人だった。妾も囲っていたらしいが子持たずで跡を取ったのは幼い頃に養子になって、母と一緒に育った人である。母はここで生まれたこの家の血縁ではあるがこの時の主人は母から見て戸籍上は甥に当たる(母は実の祖父母の養子になってたから。本来なら叔父なのかな)。年齢は母が下だったが。まあ、昔の家なので色々あるのだ。母は生い立ちを特に隠してるわけじゃなかったが正確なことを知ったのは母が亡くなって各種の手続きで戸籍を見てからである。

閑話休題。そんな、湧き水を引き込んでいる家に泊まった夜、三部屋位続きの襖を外して20-30畳くらいになった広間に敷きならべた布団の中、寝静まってシーンとした暗闇にチョロチョロと水音だけが聞こえてた。水音を聴くと今も瞬間的にあの頃を、あの家を思い出す。今はその家もとうに建て直して痕跡のかけらもない。

てか、蛇口ちゃんと締めろ(都会のチョロチョロ音はなんとも風情がない)。

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きっと幸せになりますよ(私が