4月17日

ぼくは優しくないからよくわかるのだけれど、
ぼくのまわりには優しい人が多すぎる。
むしろきっと、優しくない人なんて、
ぼくの他にいないんじゃないかとすら、思う。

人間未満でいるから、どうか嫌って、
どうかいないものとして扱ってほしいだなんて、
随分自分勝手だと思った。
優しい人がぼくをいまだに殺さないのは、
殺したくないからじゃなくて、
殺し方を知らないからだと知った。

ぼくはむかし優しい人だったからよくわかるのだけれど、
やさしいはずいぶんと自分を傷つけて、そして、いきものにする。
やさしいひとの辞め方を知らない人に、
優しさを浪費させてしまうだけのぼくは、
やっぱりもう優しい人じゃない。

人のつらさの想像はできるのに、それを癒してあげれない。
ぼくにできることを知っているのに、体はベッドにしずむ。

ずっと眠っていればいいや。そうすればなにもみないでいられる。
ねぼけたふりをして、視力の悪い目を擦って、ひとの感情を無視できる。

優しい人は傷つきやすい人が多いから、ぼくも生きるのが辛いや。
優しい人を傷つけているのはぼくだとわかるから、ぼくもつらいや。

見捨てられたら死んでしまうだろうことはわかっている。
心じゃなくて、身体が死んでしまうと知っている。
心はもうとっくに生きたいと思わなくなってしまっているから、
優しい人に何ももらえなくなってしまったら、死んでしまうと思う。
それとも一度、離れて仕舞えばいいのだろうか。
優しい人は、ぼくを見捨てればぼくが死んでしまうことを知っているから、
やさしいままだ。
彼女も決して心が強いわけじゃない。

なきたい。

歩けない身体じゃない。
楽しいを感じられない心じゃない。
ただどうしても、息をするだけで廻る思考に敗けてしまう。

優しい人はどうしようもなくやさしくて。
けどこのままじゃなにも変われないと知ってる。
ぼくはきっと優しい人のそばを離れないといけない。
けれど苦労が怖くて、まだベッドの上で眠っている。

最近、思考力が落ちていることを実感する。
兄弟同士のバドミントンの点数を、うまく数えられなくなった。
いま、どちらに点が入って、どちらが何点で、もうどちらは何点か。

ネット越しに遊ぶ彼らを、ネットの延長線上に置いたボールに腰掛けて観戦して、
両手を使って点数を数えた。
たしかに他のことを考えていたりもしたけれど、
目を離すことはしなかった。
なのに、どうしても、点数が噛み合わない。
「今、何対何?」に応えた数が、彼らの認識とずれている。
あれ、と思って、プレーを思い返して、彼らの方が正しいことを知る。

ぼくはいったいなにをしているのだろう。

ぼくはまだ若くて、体は食べて飲んで眠る限り生きている。
優しい人が居る限り、ぼくに終わりが訪れないことを知っている。

一人暮らしをしなければいけないと、感じている。
このままでは、ぼくが死んだとき、それが、優しい人のせいになってしまう。

ぼくは優しくあれないから、きっとそうなってしまうから、
一人暮らしをしないといけないと感じている。
けれどおなじくらい、このままでもいいと感じている。

白馬の王子様や、ヒーローに憧れる少年少女のように、ぼくも何かを待っている。

ぼくがこのままでいたある日に、何かがぼくを変えてくれることを期待している。
そして、まだ夢を見れる若さがあるから、それを捨てられない。
だれかがぼくを変えてくれるのを待っている。
実際、部屋に閉じこもってばかりで外に出ないぼくに、そんな出会いがあるわけがないことは知っている。

ぬるいお風呂には何時間でも浸かっていられる。
そういうことなのだと、よく、わかってしまう。

ぼくににただれかと話すことができれば、変わるだろうか。

どうして誰も、ぼくを腫れ物のように扱うばかりで、えぐりとろうとしてくれないのだろうか。潰してでも、腫れ物を無くそうとしてくれないのだろうか。
そうだね。人を殺してしまうのは、怖いから。
誰もそんな罪を負いたくないから。
優しいから、人を殺すことは自分を傷つけるから、だから。
そのくせ、人に傷つけられることは許してしまえるのだろう?
人を傷つけることは戸惑うくせに、傷つけられたことは、無かったことにして、
またそばにいようとしてくれるのだろう?

ぼくだってひとをきずつけたくないよ。
でもどうしたってやさしくないままでいてしまえるようになると、人を傷つけることに無頓着でいられるようになると、君を傷つけてしまうから。

ぼくだってやさしいのだから。君の傷を見るのが辛い。
でもぼくは優しくないから、君を傷つけてしまう。
優しくあるよりも、君に離れてもらいたい。

やさしいひとになりたい

ほんとうはそばにいてほしい

なにもきにせずにわらいたい

だから、きみをきずつけたくない

優しいひとになりたい

学校に通っているだけで将来に不安なんて感じなかった小学生に戻りたい。

ぼくがぼくを見限ったから、ぼくは嘘つきになってしまった。
一度自分に嘘をつくようになると、それが自分になってしまうから。

人の感情を感じるたびに怯えてしまう。どうか機械のようにぼくをみて。
おねがいだから、だれか、ぼくを叱ってください。って、おもうよ。
けど、ぼくはわがままだから、あなたには叱って欲しくないと、思う。

ねむろう。いきていることを、優しい人のせいにしてしまいたい。

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