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21.エジプト カイロとギザ
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1.カイロ(Town No36)
カイロはエジプトの首都であり、古代と現代が混ざり合う新旧のコントラストが印象的な街だ。
約2000万人が暮らすメガシティであるが故に、交通量が多く、日常的に渋滞だが、街のエネルギーを感じられる街でもある。
カイロは近代化が進んでおり、新しいショッピングモールやホテル、高層ビルが建設されている。一方で、歴史ある建物や活気ある市場が残るエリアも多い。
ツタンカーメンの黄金のマスクをはじめ、数多くのファラオ時代の遺物を展示しているエジプト考古学博物館や、ムハンマド・アリー・モスクなど、美しいイスラーム建築が点在し、歴史好きにはたまらない街だ。
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■裏通りを歩く
エジプトのカイロといえば、ピラミッドやスフィンクスといった歴史的遺産の数々が思い浮かぶが、この巨大都市の真の姿は、雑然とした路地裏にこそある。観光客があまり足を踏み入れないエリアには、喧騒の中にも人々の暮らしのリズムがあり、そこにはカイロの「素顔」が広がっていた。
朝、裏通りの市場を歩くと、新鮮な野菜を売る露店が並び、女性たちが品定めをしながら熱心に交渉していた。赤々としたトマト、緑鮮やかなピーマンやキュウリが、埃っぽい空気の中でひときわ鮮烈な色を放っている。
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細い坂道を登ると、小さな商店が軒を連ねていた。本や文房具、雑貨を並べた店が所狭しと並び、人々はバイクや徒歩で忙しく行き交っている。
壁には色あせた看板がかかり、アラビア語の文字が並んでいるのが印象的だった。
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さらに奥へと足を踏み入れると、埃にまみれた一角に簡素な露店があった。プラスチックの椅子が無造作に置かれ、スマートフォンのアクセサリーや生活用品が売られている。目を引くディスプレイではないが、ここでも商売は成り立っているのだ。
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路地を進むと、馬車に乗った男が通りを横切った。伝統的なガラビーヤをまとい、落ち着いた表情で手綱を操るその姿は、現代の都市にありながらどこか時代を超えた雰囲気につられ、思わずシャッターを押した。
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カイロの街には、古いものと新しいものが混在しながら、独自のリズムで息づいているのだと感じた。
こうした光景のひとつひとつが、この街の日常を形作っている。観光地の華やかさとは異なり、裏通りにはカイロの生の暮らしがある。埃っぽく、雑然としていながらも、そこには力強い生活の息吹が脈打っていた。
■ハーン・ハリーリ・バザールを歩く
ガーミア・ホセインの西に、大小さまざまな店がアリの巣のように張り巡らされている感じで広がる中東最大のバザール「ハーン・ハリーリ」。
ハーンとは宿泊場所のことで、14世紀末にジャルカス・アル・ハリーリが交易商隊のための施設整備を行ったことからこの名が付いたという。
そこに商隊目あての商売人が集まり、やがて巨大な市場ができ上がっていったようだが、今ではほとんど観光客相手に変わってしまい我々日本人をみつけると「バザールでゴザール」「もうかりまっか」など怪しげな日本語で店へ誘い込もうとする。
細い路地に入ると、まず目に飛び込んでくるのは無数に並ぶ商品と、それを売る熱気に満ちた商人たちの姿だ。
色とりどりの布地が風に揺れ、スパイスの香りが鼻をくすぐる。手工芸品やランプ、香水瓶、金属細工、そして金色に輝くエジプトの神々の像が所狭しと並び、まるで時代を超えた迷宮に迷い込んだかのような錯覚を覚える。
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このバザールの醍醐味のひとつは、商人たちとの会話だ。「どこから来た?」「このスカーフはあなただけに特別価格!」—彼らの巧みな話術に思わず足を止めてしまう。
値段交渉もこの市場の醍醐味であり、交渉次第では驚くほど安く買い物ができる。だが、それ以上に楽しいのは、商人たちとのやり取りそのもの。彼らの笑顔と情熱に触れることで、この市場がただの買い物の場ではなく、生きた文化の一部であることを実感する。
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バザールを抜けるころには、手にはいくつもの戦利品、そして心にはエキゾチックな余韻が残る。
ハーン・ハリーリ・バザールは、単なる買い物の場ではなく、エジプトの歴史、文化、人々の営みを五感で味わえる場所なのだ。
■ムハンマド・アリ・モスクを訪ねて
カイロのシタデル(城塞)にそびえ立つムハンマド・アリ・モスクは、オスマン帝国の建築様式を取り入れた壮麗なモスクであり、「カイロの空の宝石」とも称される。このモスクは19世紀にエジプト総督ムハンマド・アリによって建設され、今もなおカイロの象徴的存在として多くの訪問者を魅了している。
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モスクへと続く階段を上ると、広場には多くの観光客や地元の学生たちが集まり、賑やかな雰囲気に包まれている。
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大理石の回廊を抜け、モスクの内部へ足を踏み入れると、そこには豪華絢爛な装飾が広がる。高くそびえるドームには、繊細なアラベスク模様が描かれ、無数のシャンデリアがきらめく光を放っていた。
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内部の広々とした礼拝スペースでは、人々が祈りを捧げたり、床に座って静かに語らい合ったりする姿が見られる。ムスリムでなくとも自由に見学できるため、多くの外国人観光客がその美しさと神聖な雰囲気に圧倒された。
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2.ギザ(Town No37)
ギザは、首都カイロの20km西南にありカイロ都市圏に内包されているが、行政上はカイロから独立したギザ県の県都である。。
古代エジプト以来の町であり、クフ王のピラミッドをはじめとするギザの三大ピラミッドと、ギザの大スフィンクスがある遺跡の街として世界的に有名だ。
この街を訪れるにあたって、世界遺産アカデミー特別研究員・吉岡淳氏の「ピラミッドは王の墓か?」というタイトルの講演を聞いた。以下、その要旨を紹介する。
◆ピラミッドは王の墓か?
ピラミッドは、一般的には奴隷の築いた王墓とされてきたが1990年代に入ってからギザの大ピラミッド付近でピラミッド建造に関わったとされる住居跡と墓が見つかり、豊かな生活物資や住居人のミイラが発見されたことなどから、
① 奴隷ではなく専属の労働者がいた。
② ピラミッド建設には高い建築技術を持った専門技術者が必要。
③ 建設に関する労働者のチーム編成や作業記録が文字で残っている。
ことから、奴隷も使用された可能性はあるが、専門的な知識を持った技術者が居たことも間違いない、という説がでてきた。
「ピラミッドは墓として建設されたのではなく、失業対策だ」。
その理由として、墓であれば一つでいいはずだが、一人のファラオが複数のピラミッドを造っている。その謎を解く鍵がナイル河の氾濫である。毎日ナイル河の水位をはかり、川が氾濫する時期はピラミッドの建設。氾濫が終われば再び農業をおこなっていた。つまりピラミッドの建設は失業対策として行われた公共事業であった。
カイロ市内を悠然とながれるナイル川を越えるとギザ地区にはいり、ほどなく「メンフィスのピラミッド地帯」の駐車場に到着した。
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3.スフィンクス像とピラミッド
■東ゲートにて
バスを降りて東ゲートを入ると目の前にスフインクスの像があった。
ライオンの体に人間の頭を持つスフィンクスは「太陽神」として古代エジプトから信仰の対象とされ、王者の象徴である顎鬚をつけ、敵を打破する力、あるいは王または神を守護するシンボルとされている。
長さ57m、高さ20メートルもあり世界最大の大きさを誇るギザのスフィンクスは、いつ頃作られたのか、またどのような意味合いがあったのかは解明されておらず、謎多きシンボルとなっている。
スフインクス像を正面から撮ろうと近づいて行ったのだが、引きも切らずに人がやってきて全体像を撮ることはできなかった。
あきらめてクフ王のピラミッドへ先に行くことにした。
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■クフ王のピラミッド
エジプトのギザに建つ一番大きなピラミッド、それがクフ王のピラミッドだ。クフ王のピラミッドは、正四角すいの形状を保ったまま現存する世界最古の建築物として知られ、その壮大な姿は、人々を魅了し続けている。
元々の高さは約147メートルだったが、現在はキャップストーン(ピラミッドの頂上部に置かれる石材)を含め全体を覆っていた化粧石が失われてしまったため、若干低くなっている。建設には2.5トンから15トンの石が約230万個使われたと推定され、その規模の大きさは、古代エジプトの技術力の高さを物語っている。
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■ピラミッドの中に入る
正面の階段を少し上がったところに入口があった。ちなみにこの入り口はピラミッド本来の入り口ではなく、9世紀に盗賊が掘った穴なのだそうだ。
中には、クフ王の死後の生活を考慮して設計されたという、王の間や女王の間など、複雑な通路や部屋があると聞いて、興味深々、カメラを提げて入ってみた。
人ひとり通れる急な階段が設置されていたが、そこは石でできた四角く細長い空間だった。
その先に進むと「重量軽減の間」といわれる上部に向かうにつれて段々と狭くなる廊下があった。腰を屈めて斜め上に進まなければならないので、腰の悪い私には一苦労だった。
難行苦行の末、漸くたどり着いた最後の部屋には石棺が一つだけ置かれていた。
これでは写真を撮っても意味がない。結局、一度もシャッターを押すことはなかった。
ピラミッド内部の見学を終えて周辺の風景を撮っていると、物売りが煩く付き纏ってくるので落ち着いて写真を撮ることが出来なかった。
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■観光警察官
仕方なく人混みを避けて記念写真を撮っていると、今度は馬に乗った警備員がニコニコしながらやってきて、身振り手振りで「シャッターを押してやろう」と手を出した。
カメラを渡して撮ってもらった。流石、「観光地だけあって親切だな~」と思っていたのだが、カメラを左手で返しながら「チップ2ドル!」と右手をチョキにして突き出したので、私は「ノー」と叫んで慌てて逃げだした。
後でガイドさんに話したら「それはピラミッド周辺を馬やラクダに乗って警備している観光警察官なんですが、悪い警察官もいるんですね~」。
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■再びスフインクス
その後、東ゲート側のカフェで一休みした。紅茶を飲みながら、ふと外を見るとこれぞエジプトという風景がそこにあった。
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4.パノラマポイントでラクダ乗り体験
一休みの後、小高い丘の上にあるパノラマポイントへ向かった。
そこには、ラクダをひいた男が沢山いて「ラクダに乗れ」としきりにすすめる。
2ドルで乗れるそうだが、ガイドさんの話では「2ドルは乗るだけで、降りるのは30ドルだ」とぼったくられるらしい。
ラクダは立つとかなり背が高い。飛び降りるのはムリだし、歩き出せば馬よりも激しく揺れる。高さもあいまってかなりの恐怖だ。
つまり、ラクダの御者は安価で乗せて、ラクダから下ろす時に高値を要求するのだ。
ガイドさんが「絶対にぼったくられない」という「ラクダ引き」を紹介してくれた。2ドルなら安いと思って「ラクダ乗り」を体験した。
ラクダは座っている時は、1m位の高さなので、難なく乗れたのだが、ラクダは立つときは後足だけ上げてから前足を上げるので、後足を上げた時に身体が前につんのめってズリ落ちそうになったが、両足とも立ったら意外に背が高くて見晴らしがよく、なんとなく優越感を感じた。
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パノラマポイントの周辺を2分程歩いただけで元の場所に戻ってラクダから降りたが、今度は前足だけ先に膝をつくのでまた身体がつんのめり、乗る時以上に恐怖感を覚えた。
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