私の苦手なあの子 消しゴム編③
「永崎って7月23日、誕生日なの!?はぁ~なんで!?」
教室で麻美が大きな声を出している。
登校したばかりの私は麻美に声をかけた。
「どうしたの?」
「聞いてよ、さとみ。こいつ私と同じ誕生日なんだよ!」
目の前にいる彼に指を差した。
「お前失礼だぞ。指さすなよ!」
「だって、誕生日一緒とか、ありえなくない?最悪じゃん。」
麻美は止まらない。
「麻美、言い過ぎだよ。」
彼が怒り出すのじゃないかと私はヒヤヒヤした。
「大体クラスに同じ誕生日のやつなんて、確率で言っても1組くらいはいるもんだろ。」
冷静に彼は答えた。
「そうだよね、私もなんかテレビで見たことあるよ。」
私は二人の顔を交互に見た。
「まぁ。別に気にしないし、どうでもいいけど。」
少し落ち着きを取り戻した麻美は私の席に座る。
「なぁ、一緒に誕生日会やらない?」
突然、彼が突拍子もないことを言ってきた。
私もびっくりしたが、麻美の方が驚いている。
「はぁ~!!?何考えてんの!?」
また麻美が大きな声を出した。
「いいじゃん、みんなでご飯食べようよ。なっ?」
彼は私たちの顔色など一切気にせず、話をどんどん進め、彼と彼の友達、私、麻美、の4人で誕生日会ならぬ食事会をすることになった。
麻美は声も出ないほど怒っていた。
私はこの時、なぜこんなにも麻美が怒ったのか全く分かっていなかった。
「んじゃあ、決まりな。」
と、彼はパンっと手を叩き、とびっきりの笑顔で隣のクラスに行ってしまった。麻美は黙って自分の席にもどってしまった。
その日の帰り道、私は麻美に謝った。
「麻美、ごめんね。私、ちゃんと反対できなくて。こんな誕生日会、嫌だよね。」
「いいよ。さとみは永崎の事お気にだもんね。」
ニコっと笑いながら私を見た。
「・・・」
「なんでそこ、黙るの!?もーずるいなぁ。」
麻美がしかめ面をした、と思ったら、不意にまじめな顔をした。
「いいよ、さとみ付き合うよ!」
「ありがとう。」
私は、喜んでいる顔がバレないように下を向いて歩いた。
夏休み初日、ついにこの日が来た。
「お待たせ。」
麻美との待ち合わせ場所に着いた。
「もう、あいつらファミレス行ってるって、ライン来たよ。」
麻美が携帯を見ながら教えてくれた。
「そうなんた、早いね。」
「暇なんじゃない?バカだし。」
「だね!」
2人で爆笑した。
ファミレスに着くと、少し緊張してきた。
はじめて学校以外で会う。
中に入ると、どこの席にいるか、すぐに分かった。
かなり大きな声で騒いでいる。
麻美が駆け寄り、「うるさいよ!」と叱った。
叱られた彼らは黙ったけれど、今にも吹き出しそうに笑いをこらえている。
「ぶははははぁ!もうダメだ。我慢できない。」
ウヒャヒャヒャとお腹を抱えて笑っている。
「うるさいってば。」
「もう我慢できない、麻美、学校の先生みたい。夏休みまで先生がいるのかよ!ウケるー。」
とかなりきつめの暴言を麻美にあててしまった。
「麻美・・・。」
心配になって麻美の顔を見ると、意外にもそんなに怒っていない様子だった。
(あれ?さっき、麻美って呼んた?いつの間にそんなに仲良くなったのだろう。私はまだ、【小川さん】なのに。)
「さとみも座りな。」
麻美がソファーをパンパン叩いた。
「あっ、うん。」
「俺ら、空揚げとポテト頼んだけど、後、何か食べたい物あったら、頼んで。」
とメニューを渡してくれたのは、彼の親友の島田大和(しまだやまと)君。
2人は小学生の時からの親友でいっつも一緒にいる。お互いの事を何でも知っているらしい。
「夏休み初日が誕生日って微妙よね。」
麻美がメニューを見ながら話し始めた。
「なんで?俺、そんな事思った事ないよ。」
「だって、学校休みなんだよ。プレゼントもらうハードルが高くなるじゃん。学校で渡せないから家に行かなくちゃならなくて、そうすると、連絡を取らなくちゃならないでしょ。プレゼント渡したいから会おうなんて、いかにもじゃん。」
「え?プレゼント渡したいだけで会うの、いかにもなの?」
「永崎はそういうの全然考えてなさそうだよね。本能のまんまでしょ。」
「はぁ?それどういう意味だよ。」
「アホって意味ですっ!」
「夫婦漫才かよ。」
2人のやり取りを見ながら、島田君が茶化した。
「やめてよ!縁起でもない!。」
麻美が怒って言う。
「ごめんごめん。」
島田君は笑っている。私は何故が全然笑えなかった。
「私、ピザ食べたいな。」
空気を切り裂くように私は言った。
「あっ、そうだね、注文しようか。」
一瞬、静かになったが、島田君がフォローしてくれた。
ピザが来ると、ロシアンルーレットをしようと彼が言い出した。
1枚のピザにタバスコを沢山かけて目をつぶってお皿を回し、目の前に来た1枚を食べる、というルールだ。
結局言いだしっぺの彼にタバスコピザが当たった。
「辛~!!!からっ!!!」
と大きな声で騒ぎ倒して、私たち3人は大爆笑した。
そして、店員さんに怒られた。
たらふく食べて、たらふく笑い、私たちはファミレスを出て、近くの公園に向かった。
その間もずっと彼は「辛い辛い」と叫んでいた。
「いい加減うるさいよ。」
麻美に何度も注意されていた。
「我慢できないんだもん。牛乳買ってきて。」
甘ったれた声で言う彼がとても可愛かった。
島田君がコンビニに牛乳を買いに行ってくれた。
公園のベンチで待っていると、麻美が「私もコンビニ行ってくるね。」と行ってしまい、突然2人きりになってしまった。
急に2人になると緊張する。
彼も気まずくなったのか、ベンチから降りて地面にしゃがみ込んだ。砂に落書きをしている。
「お腹いっぱいになった?」
急にこちらを振り向いて言った。
「なったよ。」
ベンチに座る私は少し彼を見下ろしている。なんだかそれが妙に面白かった。
いつも学校では彼の背中ばかり見ていたが、見下ろす感じは初めてだ。なんか可愛い。
「ふふふふ。」
「なに?」
しゃがんでいる彼は、また振り向く。
「なんでもないよ。」
首を横にふる。
「何でもないの笑うのかよ。変な奴。」
もう振り向かない。
「ああっ!」
急に大きな声を出して振り向いた。
「頭ハゲてる?」
頭のてっぺんを触っている。
「えっ?ふふふふ、あははは」
私はツボに入った。笑いすぎておなかが痛い。
「えっ?マジでハゲてんの?」
笑ってばかりいる私に心配になったのか、立ち上がり頭を滅茶苦茶触っている。
「ちょっ、教えて!」
「ふふふふ、あははは」
「ちょっと、小川さん!?」
慌てている【小川さん】と呼ぶ彼にふと、我に返った。
(小川さんかぁ・・・)
「ハゲてないよ。」
笑いは収まった。
「よかったぁー。いきなり笑うからハゲてんのかと思った。」
安心した様子で また地面にしゃがみ込んだ。
「あーびっくりしたぁ焦ったぁ。」
「辛いの治った?」
私はおもむろに聞いた。
「ん?あっ!!スゲー、さっきのぴっくりで辛いの忘れた!もう辛くない!スゲー!小川さんスゲー!!」
また立ち上がりぴょんぴょん飛び跳ねている。
「よっしゃー!ちょっと走ってくる。」
と突然、走り出しどこかに行ってしまった。
「えっ??」
小さくなる彼を見ながら、また笑った。
さきに戻ってきたのは麻美と島田君だった。
「あれ?永崎は?」
麻美があたりを見まわしている。
「走ってったよ。」
「は?」
麻美の声がまた大きくなる。
「なんで走るの?」
「あいつ、昔からじっとしてらんないんだよ。待てないんよなぁ。」
島田君がフォローしていたけど、麻美は納得いかないようだった。
「だからって、今走らなくても良くない?」
私に同意を求めてきた。
「でも、凄く楽しそうに走ってたよ。」
と私は言った。
「あれは動物だね。いいの?さとみ」
「えっ?」
絶妙な問いかけを投げかけてきた。
「えっ?なに、そうなの?」
島田君にもバレてしまった。
「ち、違うよ。」
慌てて否定しても何の説得力もなかった。
「おーい。」
遠くから声が聞こえた。
両手に何かを持ってこちらに走ってくる。
「永崎!どこ行ってたのよ!!」
麻美が怒鳴った。
「なぁ、花火と水風船やろう!」
息を切らして、嬉しそうに両手を振り回している。
「その前に伴、牛乳飲めよ!」
島田君がずっと持っていた牛乳を差し出す。
「忘れてた!あーもう辛いの治ったよ。」
と言いながら200mlの牛乳を一気に飲み干した。
「うまぁー!ぬるー!」
牛乳を飲み終えた彼は目をキラキラさせながら、水風船のパッケージを開け始めた。
「めっちゃ沢山あるじゃん。何個入り?」
島田君が手伝い始めた。
「100個!凄くない!?やばいな!」
2人は手際よく水風船を作り始めた。
呆気に取られている私たちをよそに男子二人はどんどん水風船を作っていく。
つづく
最後まで読んでくださりありがとうございます。
まだまだ続きますので、また読みに来ていただけると嬉しいです!