移民2世が現地生まれカナダ人より年収が高いのはなぜ?
近年カナダでも、移民が自分たちの仕事を奪っているという右傾ポピュリストの発言を信じ、移民を非難する人が増えてきたように思います。事実、移民子弟の高等教育への進学率はカナダ生まれの人より高く、それが収入に影響しています。教育と年収、そして民族バックグラウンドはカナダでは相関関係にあります。見てみましょう。
貧困でも子どもを大学に行かせる移民1世
2018年の統計では、15歳未満でカナダに移民として渡ってきた子どもが貧困家庭で育つ割合は32%、カナダ生まれ同年代の子どもの2倍です。しかし、20歳になると、70%の移民子弟が大学や短大などの高等教育を受けているのに対しカナダ生まれは56%です。そして彼らが30歳になる頃には、移民子弟のほうがカナダ平均より13%高い年収を得ています。
移民第1世代は働き続け、自分たちを犠牲にしても子どもたちに良い教育を与えようとお金を工面します。それゆえ第2世代の子どもたちは親の期待に応えるべく勉強し、高等教育を受け親より高い収入を得られる仕事に就きます。しかし、それもそこまでで、第3世代になると第2世代より進学率が下がり収入も減るようです。白人以外のビジブル(有色)マイノリティを調査したところ、日系と韓国系を除いて移民第3世代は、第2世代の収入を越えられないという調査結果が出ています。ただ、上記で述べた傾向は、人種差別を受けやすい黒人やヒスパニック系移民には当てはまらず、彼らが世代を通して受ける教育レベルや収入はすぐに頭打ちになります。
さて、移民第2世代は親が自分にしたように子どもに勉強を強要しないようです。子どもに無理強いすることは彼らのリベラルな気質ではできないからです。また、第3世代にもなると、民族の継承文化よりカナダ文化の影響がより強くなり、カナダのリラックスした自由な文化を好むようになります。彼らは第2世代の親が作った豊かな生活を楽しみ、リベラルな親は自分に勉強を強いるわけでもなく、そのような楽な生活がずっと続くと思うのでしょう。
日系と韓国系の収入は世代間で穏やかに増える
南アジア系や中国系の収入が、第1世代から第2世代で50~60%上がり群を抜いています。しかし、彼らの第2世代と第3世代を比べると、ビジブルマイノリティ平均の18%の収入が減るそうです。一方、日系や韓国系移民の場合、世代を超えて穏やかに収入は上がっていきます。
人種による進学率の違いを裏付けるかのように、私の周りでも、トロントの私の日系カナダ人の友人や知人を見渡すと、4世や5世でも高等教育を受けている人が多いように思います。しかし、カナダ人で白人の夫の兄弟やその子どもたちを見てみると、高等教育を受けた人は少ない印象です。ただ、カナダでは白人は都市部にも郊外にも住んでいますが、ビジブルマイノリティは都市部に住む傾向があるのも、進学率と無関係ではないと思います。
世代間の教育に対する考え方や収入の変化は、私の家族にもいずれ当てはまることと思います。わが家はカナダ人と日本人の国際結婚でカナダ在住です。私が持つ日本文化は勤勉や教育に重きを置きますし、夫も高等教育を受けており、教育重視の概念は子どもたちにも受け継がれていると思います。現に子どもたちは高等教育を受けており、うまくいけば私たち夫婦よりよい収入を得られる仕事に就けるでしょう。
ただ、彼らはやはりカナダのリラックスした自由な文化を受け継いでいて、私や夫のように自分の子どもたちを勉強に追い立てないかもしれません。私のかかりつけの中国系の検眼医が、子どもが勉強しないと愚痴を言っていたのを思い出します。移民2世の彼女もあまり子どもに強く言わないタイプです。
移民が職を奪っているという誤解
極右移民嫌いのトランプがアメリカ大統領になって以降、カナダでも右傾ポピュリスト的発言が増えてきました。アイスホッケー界のドン・チェリーが移民を非難するような発言でCBCを解雇されたのを覚えている人も多いでしょう。一般カナダ人もアメリカに触発されてか、また、コロナ自粛の不満のはけ口に移民の悪口を言っても良いという風潮が強くなってきたように感じます。
移民大国のカナダでは、移民はまず低賃金の仕事に就き、学校に行って英語力を上げたり、手に職を付けたりしてだんだん収入を上げていくという過程を辿ります。移民が奪っているという職が低賃金の職なのか、学歴が必要な高収入の職なのかはわかりませんが、カナダの教育レベルは世界でもっとも高い部類に入り、高等教育もできるだけ受けやすいようにとシステムが整っています。
ただ、システムは整っていても、それを利用するかしないかは本人次第です。高等教育を受けるインテリを馬鹿にするカナダ人も少なからずいて、そのような家族の中で育つと、良い教育を受け高い収入を得るチャンスを自ら捨てる若者もいます。
カナダは移民で成り立つ国であり、人材資源である移民を非難することは間違っていますが、誰かを非難することで得をする人がいるのも事実です。今年9月、スウェーデンでは反移民の極右政党が多数の議席を取り躍進しました。ヨーロッパの難民問題はカナダとは特色が違うにも関わらず、移民を嫌う人たちにより同じようなことがカナダでも起こりかねません。
国民の間で溝ができることは、決して良い結果にはならないということを忘れてはいけないと思います。
参考:Toronto Star, Mar. 22, 2021 Immigrant children are starting out poorer — but getting to university more often and earning better salaries, Canadian statistics show, Toronto Star, Jan. 21, 2018 Census data says you’ll make a lot more than your immigrant parents, but your kids won’t make as much as you
この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2022年10月号に寄稿したものです。 ☞ https://torja.ca/kaede-trilingual-32/
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