イーロン・マスクの警鐘をどう受け取る?
日本の人口が昨年64万人減ったことに対して、テスラのCEOで世界一の富豪であるイーロン・マスクが、「日本がこのまま有効な少子化対策をせず消滅してしまうのは世界の損失だ」とツイートし、海外でもニュースになっています。彼のことが好きか嫌いかは別にして、影響力のある人物の警鐘を、日本は真剣に受け止めることができるのでしょうか。
30年間実質無策だった日本
30年前、1990年に日本を駆け抜けた「出生率1.57ショック」。それを受け、毎日のように新聞に少子化についての記事が載っていたのを今でもはっきり覚えています。それから今日まで、日本は根本的な原因から目を背け、上辺だけの対策を立ててはみるものの、ものの見事に失敗してきました。昨年の出生率は1.3だったようで、2040年には1人の高齢者を1.5人の現役世代で支えなければならない時代が来るそうです。
既得権益と政治力を持っているいる男性は、自分たちの利益を守るために、若者や女性を非正規で安く使い、妻に家事育児を押し付けてきました。力のある人たちは、「今あるものに幸せを感じろ」、「稼げないのは自己責任」と言います。結婚できる強い立場の男性の本音は、「自分の子どもの母親は美しく賢いほうがいいし働いてもいいが、家事育児をちゃんとやって自分より高収入になってはいけない」というものです。
このように、一部の既得権益階級の男性に都合の良い社会を作り上げてきたため、日本の出生率は低下し、国力は下がり続け、日本の存亡にかかわる事態になっています。
抜本的な改革をしないまま、女性が結婚したがらない、低賃金のため男性が結婚できない日本ができあがりました。多様性を恐れ、変化を受け入れず、若者の未来より男性年長者の権益や企業利益を優先してきたツケが回ってきたのです。日本は外国人を労働者として受け入れるが永住はさせないので、移民で国の人口を調節できるような政策も取れません。八方ふさがりなのです。
海外移住する女性が増えている
第8回「日本女性はなぜ 海外移住するのか」でも書いたように、私は結婚当初は日本で頑張るつもりで、カナダに移住する気持ちは皆無でした。しかし、男女平等ランキング120位の日本が誇る女性蔑視、子供を育てながら働くことへの無理解や日本社会の閉塞感に耐えられなくなり、日本を出ることにしました。その結果、日本にとっては貴重なはずの子どもたちも海外で成長し、今後はカナダの国に貢献することになりました。
現在、海外に永住する日本人女性は33万人、男性が20万人で、女性優位で年々増え続けています。日本の総務省は海外永住者に興味がなく統計を取っていないため、年齢分布はわかりません。このうちの何人が若者で、何人が子どもかは分かりませんが、私のように日本が変わるとは考えられずに海外に出た女性もたくさんいることでしょう。
今後ますます若い女性が日本を脱出することは明らかです。それと共に彼女たちが日本で出産していただろう子どもも海外に流出し、その孫やひ孫世代も日本は失うことになります。この損失を、日本政府は小さいと見るのか大きいと見るのか、さてどちらでしょうか。
大人しい日本人
私は日本在住時、色々な場面で声を上げると叩かれていました。私を叩いていたのは主に、職場の上司、同僚、部下、親、姉、親戚です。私の知る女性たちの多くは、叩かれないよう、目立たないように、男性を立てながら能力を隠し、時には男性といっしょに女性を叩いて生き延びてきました。
私の父は反抗する私に聞こえよがしに、働きながら尚且つ同居の義父母の面倒を見て子どもを育てていた従妹を、「主婦の鑑(かがみ)」とよく褒めていました。そして、父の世代がいなくなり日本に残ったのは、希望を持てない若者と結婚したくない女性と、経済的な理由で子どもを持てない、または増やせない夫婦です。それにも関わらず、綿々と変わりたくない社会が続いています。
今年カナダで起きたトラック運転手たちのデモはまだ記憶に新しいでしょう。2009年にはトロントの市職員がストライキをして1か月以上ゴミの収集がありませんでした。フランスではストライキは日常茶飯事で住民も慣れたものです。デモやストライキは庶民に残された抗議の権利です。しかし、日本人はストライキをしなくなりました。昔は春闘が活発でしたが、今は労働組合も幹部が経営者寄りになり形骸化しています。非正規社員がデモやストライキをしたと聞いたことがありません。クラウドファンディングをすれば資金は集まるはずなのに、日本人はほんとうに大人しい国民です。
声を出さないと子どもたちの未来はない
日本の未来が暗いので、海外移住させるつもりで子どもに英語教育をしているというコメントをSNS上でよく見かけます。しかし、海外移住は簡単なことではありません。その国がビザや永住権を出してくれないことには移住はできないからです。移民政策やタイミング、運も影響するでしょうし、子どもが海外に住みたいと思わないかもしれません。
親がしないといけないことは、子どもたちが将来も日本で幸せに暮らせるように、建設的な抗議をすることです。閉鎖的な文化を変えることです。与えられるものを我慢して受け入れるだけでなく、政治家にメールを送ることです。そして、子どもをただ素直な勉強ができる子に育てるのではなく、自分で考え、意見を持ち、議論し、行動できるように育てることです。このまま日本人という素晴らしい民族が消えていくことを、ただ傍観していてよいはずはありません。
この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2022年6月号に寄稿 https://torja.ca/kaede-trilingual-28/
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