徹夜してでも入れたいカナダのフレンチイマージョン!前編
わが家の子ども達は、カナダのフレンチイマージョンという公的な英仏語バイリンガル教育システムを利用し、そこに日本語補習校をプラスしてトライリンガルとなりました。3か国語すべてが高度になったのはこれら教育機関があったお陰です。今月と来月の2回に分けて、カナダのフレンチイマージョンを紹介したいと思います。
カナダの多言語文化
カナダは移民国家、多文化多言語社会で、カナダ全土で話されている言語はなんと200以上もあります。連邦政府の公用語は英語とフランス語ですが、カナダ人全員がバイリンガルではありません。10の州と3つの準州がありますが、ケベック州はフランス語が公用語、ニューブランズウィック州は2言語が公用語、その他は英語のみが公用語です。フランス語話者はケベック州に集中しています。
新大陸への入植が始まり、17世紀初めから入植していたフランスと後発のイギリスの間でカナダの取り合いとなり、英仏戦争はイギリスの勝利となりました。カナダはイギリス領となりましたが、ケベック州周辺にフランス人の言葉と文化は温存されました。その後、独立したアメリカが攻めてきましたが追い返し、カナダはイギリス領に留まることを選びました。イギリスから独立した現在でもエリザベス女王が国家元首です。
ケベック州のフランス系住民は、英語に押され気味なフランス語の存続に危機感を抱き、州内ではフランス語優先の政策を取り、時折独立運動を繰り広げました。1969年の英仏2言語公用語法の成立以後、カナダは国家分裂を避けるため、英仏バイリンガル教育に取り組んできました。その結果、英語圏に住みながら子どもにフランス語も習得させたい場合、フレンチイマージョンコースのある公立学校へ通わせることができるようになりました。
フレンチイマージョンとは
フレンチイマージョンとはフランス語を外国語としてではなく、フランス語で算数や理科などの教科を勉強することで、自然と言葉を身に着けるシステムを呼び、1967年にカナダで始まりました。イマージョン方式は外国語学習に有利であるとされ、今では世界中で採用されています。
フレンチイマージョンには開始学年や学習時間数が違う様々なプログラムがありますが、わが家の子どもたちは幼稚園年長から始まる早期イマージョンでフランス語を始めました。早期イマージョンでは、幼稚園年長から3年生までは100%フランス語で勉強します。
幼稚園では教科学習はなく、教師はフランス語で話しますが、園児たちはフランス語の発話は強要されず英語で話しても構いません。年長から始めてフランス語が口から出るようになるには大体1年半ほどかかるそうで、わが家の子どもたちも1年の沈黙期を経たくらいからフランス語の発話が見られました。
早期イマージョンでは、読み書きも1年生から英語ではなくフランス語で始めます。これはフランス語と生活用語である英語が言語的に近いことから、フランス語から読み書きを始めても英語に悪影響が出ないからです。(筆者注:日本語と英語のような遠い言語のバイリンガル教育は、読み書きは同時に始めた方がよいでしょう。)私の子どもたちも、フランス語の影響で英語習得が遅れるという現象は起こりませんでした。
そして、4年生から徐々に英語が入ってきて、6年生から8年生では50%程度、その後9年生から12年生の高校在学中に30%ほどの教科をフランス語で取ることができます。
外国語習得のための学習時間の目安は5,000~6,000時間なので、早期イマージョンプログラムだと小学校卒業時くらいでフランス語母語話者に近づきます。その後高校卒業まで続けると約7,000時間フランス語を勉強したことになり、外国語習得に十分な接触量があると考えられています。
特にフランス語習得を目的としない生徒でも、カナダでは小学4年生から毎日20~40分程度の授業(基礎フランス語)を受けます。日本の英語学習でも一般的に採用されているこの教授方法は、外国語習得には最も効果が期待できないそうです。
徹夜してでもイマージョンに入れたい
発足以来フレンチイマージョンに子どもを入れる家庭は増え続け、2016-2017年度にカナダの公立幼稚園から高校のフレンチイマージョンに在籍する子どもの数は約45万人に上り、全体の11.5%に当たります(ケベック州とヌナブト準州を除く)。
その増加率は、2005年から2015年の10年間でカナダ全体で41%、オンタリオ州では73%増え、近年では一大ブームと言えます。その人気に押されてフレンチイマージョンプログラムを持つ学校がどんどん増えています。
カナダの英語圏でフレンチイマージョンの生徒が増える理由は、私立並みのフランス語教育を公立で受けられること、教育に対する意識の高い家庭の子どもが通ってくるので学習レベルが英語プログラムより高いと親が考えていること、また、カナダ政府の仕事を得るには英仏語のバイリンガルが有利なことが挙げられます。
そのため、入学申し込みのため早朝から並んだり、中には何日も徹夜をする親もいるほどです。私の子どもたちが入学した15年以上前には人気は出始めていましたが、異常人気というほどではなく、まだ徹夜する親はいませんでした。
世界中で注目されているカナダ発祥のイマージョン方式。次号では、イマージョン方式で本当に外国語を話せるようになるのか、その長所や短所をご紹介しましょう。
参考:中島和子「マルチリンガル教育への招待」、2016年カナダ国勢調査、The Globe and Mail、The Star
この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2020年7月号に寄稿したものです。 https://torja.ca/kaede-trilingual-06/
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