看護師とプロボクサーの顔を持つかっこいい友達の話
私の同期である友達は看護師とボクシングをする。
なんならボクシングをするために病院を軽く選んだ。彼はなんでものらりくらりと風に身を任せていそうで筋があって行動していそうにも見える。
本性は多分知っている人は少ない。私も知らない。
彼の試合を見に行ったのは1ヶ月ほど前。
場所は新宿だった。
私はなんだか調子が狂い知らぬ間に死のうと思ったり、薬を飲んでヘドロのようにベッドにへばりついてしまったり、食べ物の味がしなくなったり食感が気持ち悪くなったりそんな時期であったから、試合などみにいける状態ではなかった。
けど行ったんだよねあの時の自分。
休職中であるし正直職場の人に当時、嫌悪や憎しみや苦しさの根源だとその時の自分は頭でそうとしか考えられなかったから、職場から五分の距離にある家にいるだけで気が狂ってしまいそうであるけど、そこにいるしかなかった。そんな時だった。
彼:〇〇さん!久しぶり 試合の日が決まったんだ チケット渡しに行ってもいいかな。
私:調子があまり良くないから、まだわからないな、ごめんね
そんなラインの履歴が残っているのに私はなんで見に行ったのか。
彼は一つ下の男の子。入職時私は金髪のインナーカラーが黒染めしてもどうしても染まらなくて、それを隠すように私は国公立をでて君たちより年上だけれど、努力して生きてきたんだ。なんてまた大学入った時のような自分には誇れない見てくれや態度を隠すように汚らしいステッカーを貼って研修を受けていた。
今は仲のいい同期ばかりであると私の錯覚かわからないが、周りはいい子ばかりで飲み会に誘ってくれたり、
「〇〇ちゃん!元気?〇〇ちゃん好きだから、職場関係なく遊びに行こうよ!」
なんて子犬のような子に懐かれるようになった。本当に可愛らしい。
好かれてから私という人間はステッカーを全て外し、私という人間はつまらない人間ですと深くフードをかぶる。
それを好む人が多くて、同年代の人は可愛らしいなと思ったりする。それを見破る人は私を貶し、けなすわりにはハエのように集っている。それはそれで面白いし、たかられる分には疎ましいが飼い慣らせるようになったらそれでいいし、カエルに食べられそうになれば助けてはあげたし、カエルの方が私が気に入ったとしても、情で隔離したいと思う。多分これを読む人はわかるだろう。いやわからないかもしれない。私の好きな人ほどこの話を読んで自分のことかもと急に連絡をくれなくなる。であれば書かなければいい。い痛くない言葉ほど吐きたくなる。履かなければ通り過ぎる、いい人で、あなたと良好な関係で続く。そこに歪みを入れたくなる。
丸い鉄のつるんとした形状よりも、ガンとハンマーで形をつけたものや、恋人であれば、何度も軽く刺激を与え、輝きがますものだと思う。知らんけど。
彼のボクシングの話。
チケットは、「川崎いる?渡しに行くね!」二言で済んだ。
彼に取って私が体調が悪いだとか、そんなのどうでもよかった。見にきて!となんだか頼りにされているような、これまた謎に懐く野良犬のような自由奔放な彼は、バイクで私の家に久しぶりー!とふらっと現れた。
やっほー。と気の無い返事をして、体重の減りが激しく、寝たきりであったため、筋肉の落ちたからだでパジャマで外に向かう。
小雨が降っていた。
雨の重量感を感じた。そんな情けない私に
「痩せたよね、〇〇さん久しぶり。俺はほどほどに仕事もやってます。」
と礼儀正しく挨拶する彼。
「職場どお。」
聞くと、
「相変わらずだよ。笑」
と彼らしい返事をする。
チケットには彼が写っていて、
「写り悪いんだよね、、」
とそちらを確認すると、看護師をしながら体重を調節していた彼は、栄養失調のように顔色が緑色でポーズを取っていて、
なんか笑った。久しぶりに笑った私はフッと空気が出て、それを見た彼はふふふと笑っていた。
雨の降りが強くなる前に帰りな、と送り出し、またね!と帰っていった。
彼は北海道からこちらにきたもので、私の友達にも良くあって、弟のように可愛がっていたし可愛かった。入職してから同じ部署に決まり、挨拶を軽くかわし、他の同期からは「〇〇ってさ、ほんと近ずくなみたいな空気出してて怖かったよね」とか言われるのに、彼は「えー、そうかな」と興味なさそうだった。
ぽやーっとした雰囲気の彼は、ぼーっとしてるかな、大丈夫かなと心配を片手間に、仕事していると、普通の業務は丁寧でなくとも器用にこなし、定時で帰り、たまに手に傷を隠し、淡々と休まずに働いていた。
今考えると、というか今この瞬間も尊敬と感動を覚える。
仕事とトレーニング、練習を往復し、家には年下の彼女がいて、怒っているところは家族よりも一緒にいる時間が多かった時もあったが、数回しか見たことがないし、なんでもこんなに器用にこなす男という性別の人種には初めてあった。
彼がボクシングのプロを目指していることを知ったのも出会って半年経ってからであった。お疲れ様、家帰ったら何するのなんてありきたりな会話の中で私は飲み会飲み会なんて馬鹿野郎女であったが、彼は嬉しそうにニヤニヤしながら「僕はあることをしに行きます、、」なんて言っていたから、聞いてほしいんだろうな、女とでも会うんでしょうと、関東に来たばかりの彼をおちょくったが、それがボクシングだったとは。本当に人として愛らしく、愛される人間だなと思った。
あるときの飲み会で
「なんでそんなにボクシングをしていることを伝えるまでに時間がかかったの?」
と私が尋ねると
「だって、プロになれるかわからないし、なりたくてこっちにはきたけど、恥ずかしいじゃん」
とまたニヤニヤしながら答える。この夢に一生懸命な男の子は、自分の夢の輝きや大切さをわかっている人だ。黙って努力できる人だ。ボクシングを愛しているんだな。と熱いものがたくさんそのニヤニヤから溢れていた。
なんだかんだ馬鹿にされるような優しさのある彼は、優しさが最後には伝えわる芯のある人間であったが、いつかどこかの馬鹿が突っかかってきたら縦になろうと思っていた。
馬鹿が職場にはいたが、守るどころか守られていた私である。どこまでも情けないな、。
試合は新宿であった。
職場に一年前に転職してきた二個上の先輩と見に行った。
「チケット値段するよね。買わされたきもするけどさ、でも見たいよね」
そんな会話をしながら、あ、そうだったかもななんて思って、ヘラヘラしながら、歩いた。
私は、休職してから家族と恋人の間をいったりきたりする死なないように監視していただいている身であったから、それ以外の人間に会うのが久しぶりの経験であった。外の世界は愛暖かい季節で、少し気持ち悪くてベタベタしていて、謎に当時の私によく馴染んてこの気持ち悪い季節でよかったと思った。
試合の会場に着く。
いかつい肩幅の大きい男とタイトで短いワンピースをきて入れ墨をちらつかせる女性、スポーツウエアを身にまとい、タオルを首に巻く女性。列を作るビルの外の設備に、大きな試合なんだなと実感する。
中途半端な大きさの新宿のビルのエレベーターの箱に何も共通点のない私たちが乗り込み、外に出ると心臓に響くような音の出すDJスピーカーから音がが響いていた。
久々の音に吐きそうになりながら、ワンドリンクを頼み、席につく。
「どこの席かわからなくね」
「ここでいいよね」
とか一緒に来た先輩と話しながらビールを飲む。茶色の液体、こんな味だっけ。
外で飲む久々のビール案外うまかった。
「あれ、ロバートじゃね」
と、会場にいた芸能人を指差す先輩。先輩も私の休職にはあまり触れずに、顔見れて嬉しいんだぞーと照れ臭そうにたまにいうくらいだった。愛を感じた。
そんなことをしていると、リングに司会の男がたつ。
新人戦で彼は入場した。
なんだかパンツの端にはピンクのヒラヒラがついていた。なんだあれ。大丈夫か。と思っていた。
彼より身長の高い対戦相手は、年上の医学生であった。医学生と看護師の戦い。面白すぎるし、やはり医療従事者って変わり者だな、と再確認した。
試合のゴングが鳴る。彼はアウェイであった。対戦相手のジムは大きいらしくて太い声が響き渡る。私は、「いけ、いけ」と小声で囁いていたが、気が付いた時には「入ってるよ!いけ!」と叫んでいた。
試合は4ラウンド目まで続いた。
互角の殴り合い。彼は、仕事中に見たことのない目をしていて、まるで殺し屋のような集中した目で相手の動きを睨み続けていた。
私も一緒になって睨み、声を出していたが途中で枯れていた。
こんな大きな声を出したり集中できるのは、数か月ぶりであった。
彼は4ラウンド目の最終ラウンドでふらついていた相手のあごを右手で力強く殴った。相手が汗のしぶきを残し地面にどんと倒れる。
やった!と先輩と歓喜する。彼は、やはり彼だった。
レフリーと一緒になって倒れた相手に「大丈夫ですか」とかがむのだ。
笑った。コーチのような人から離れろと声をかけられ、司会からインタビューに答える。
緊張しましたが、練習したせいかが出せました。
ありがとうございました。今後も頑張ります。みなさん、試合が続きますので、熱中症にきをつけて楽しんでください!
彼らしすぎるだろ。退場でこちらに近ずいてくる
やったねよく頑張った。と声をかけるとグーをこちらに突きつけてタッチとヘラヘラしていた。グータッチをかわし、彼は退場した。
感動した。ここまで書いて、彼に恋愛感情はないのか、彼女にもしも見られたら心配されそうであるが、あくまで本当に弟のように可愛らしい存在である。そして彼に負けていられないとこんな私であるが思っている。何かでこの恩を返せますように。そのために応援し続けるし、この感動を書き続けたいし、看護師を続けたいと思っている。
先輩と会場の外に出ると、「すごかったすね」と若い男性の声がした。
会釈して去ろうとすると「〇〇先生じゃん」と先輩の声がする。
研修医の先生だった。人当たりのいいそのひとはご飯行きましょうと焼肉屋を予約し、彼と彼の彼女と先生と私と先輩の5人で美味しい牛タンを食べて会話した。
ありきたりな展開であるありきたりな仕事の愚痴を言い合ったり、近況報告する何気ない時間は、私にとって贅沢であった。みんなどんなことを思っているか忘れ去られる時間かわからないけれど、多分あーそんなこともあったねというだろう。
私はどんな高級焼肉より、あの時間は、噛み締めたい時間であったし、それに賞味期限もあるのだろうけれど少し過ぎてしまっても食べ切りたいと思う。
もっと書きたいこともあったけれど、前回思った。感情も思い出も出せるうちに、思ううちにかけるぶんだけ、出せる分だけ書こうと思う。それが今の私にできることでするべきことだと思う。この思い出も感情も読んでくれる人も、その人が思うことも聞けるうちに、思ううちに、そしてそれを読み返したりする時間も来ますように。はたまたこないくらいに幸せで充実した時間が送れますように。大切な思い出も忘れてしまうことが、青春がなくなってしまうことも時間の流れも惜しくなることがほとんどだけれど、このまま歳を取れますように。
家に帰っていぬにご飯をあげてきます。でわ。
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