3匹目の子豚がル・コルビジェだったら
***注意***
これはイギリス民話『三匹の子豚』及び世界的な巨匠建築家ル・コルビジェを馬鹿にするものでは決してありません。
あくまで『建築を面白く学ぶ』ものだと思ってお読み下さい。
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『三匹の子豚』
三匹の子豚はそれぞれ家を作ることになりました。だって恐ろしい狼が狙っているのです。
1匹は葦の茎で拵えた家、もう1匹は木の家、そしてもう1匹は・・・・・・
昔々、あるところに三匹の子豚がいました。
太っているのがでぶぶた、中くらいのが中ぶた、痩せていて丸眼鏡をかけているのがル・コルビジェと言いました。
三匹はそれぞれ家を作ろうと思いました。
だってこの辺には怖い狼が出るのです。
襲われて喰われてしまうかもしれないからです。
始めにでぶぶたが葦の茎で、家を作り始めました。
中ぶたはそれを見て、「でぶぶた、そんな家じゃ狼の鼻息で吹き飛んじゃうよ。もっと丈夫な家を作らないと駄目だよ」と言いました。
「大丈夫だよ。狼にだって壊すことは出来ないさ」。
そしてすぐに『葦の茎の家』は出来上がりました。
「僕の家が出来たぞ。僕が1人で建てたんだ。まるで王様になった気分だ」。
中ぶたは言いました。
「狼に吹き飛ばされても知らないよ」。
しばらくして中ぶたが、道に板切れが落ちているのを見つけました。
「うん。この板で家を作ろう。葦の茎の家よりは丈夫だよ。狼なんて平気さ」。
中ぶたは腰を下ろして一休みしました。
それからぐずぐす仕事を始めて、やっとのことで『木の家』は出来上がりました。
そんな中、ル・コルビジェは、石灰や粘土などでセメントを作り、川から汲んできた綺麗な水と混ぜ合わせました。
こうしてできたセメントペーストに近くの山や川でみつけた砂や砂利を加え、ぐるぐるとかき混ぜたのです。
その頃お腹を空かせた狼は、でぶぶたの家にやって来ました。
「おい。でぶぶた。家の中になんて入っていないで、出ておいでよ。外は良い天気だぞ」。
しかし、でぶぶたは断りました。
「お前が何をしようと思っているか知ってるよ。捕まえて僕を食おうって言うんだろ」。
「ようし。優しく言っても出てこないなら、こんな家吹き飛ばしてしまうぞ」。
「やれるもんならなってみろ。この家は僕が丈夫に作ったんだ。壊れるもんか」。
そして、狼は言いました。
「お前、俺の鼻息の強さを知らないな。いいか。覚悟しろ。1、2、3」
ぶわっーー
『葦の茎の家』は吹き飛んで、でぶぶたはころりころり。
でぶぶたは慌てて立ち上がると、逃げて逃げて、中ぶたの『木の家』に行きました。
「おーい。中ぶた。助けてくれ。狼に襲われているんだ」。
中ぶたはドアを開けて、言いました。
「やっぱり吹き飛ばされたのか。さぁお入り、もう大丈夫だよ」。
そこに狼もやってきて、
「おい。中ぶた。俺も中に入れてくれよ。一緒に遊ぼう」。
「嫌だよ。遊ぶんじゃなくて僕たちを食おうって言うんだろ」。
狼は言いました。
「遊んでくれないなら、こんな家、吹き飛ばしてしまうぞ。1、2、3」
ぶぅー、ぶわっーー
2吹きすると、『木の家』は吹き飛んで、子豚たちはころりころり。
でぶぶたと中ぶたは慌てて立ち上がると、逃げ出しました。
逃げて、逃げて、逃げた先には、なんと見たこともない『コンクリートで作られた不思議な家』がありました。
「おーい。ル・コルビジェ。助けてくれ。狼に襲われているんだ」。
「おーい。助けてくれ、僕の『葦の茎の家』が吹き飛ばされてしまったんだ」。
すると、ル・コルビジェはドアを開けて
「やっぱり駄目だったろう。さぁお入り。今度は大丈夫だよ」。
ル・コルビジェはでぶぶたに言いました。
「さぁドアを閉めてくれ、鍵をガッチリかけておくんだよ」
そこへ狼が、大急ぎで丘を駆け下りて来て、子豚たちのいる『コンクリートの家』に着きました。
「こ、こ、これは?なんだー???」
見たこともないコンクリートの家に狼は驚きました。
そして狼は言いました。
「これは感心したよ。よくもまぁこんな家を作れたもんだ。見事だ。偉い。ところで作り方を教えてくれないだろうか。中に入ってじっくり聴きたいもんだ」。
中ぶたは言いました。
「嫌だよ。僕たちを食おうって言うんだろ」。
「違うぞ。本当に俺はこの家に感動したんだ。入れてくれよ」。
すると、ル・コルビジェはなんとあっさり扉を開けて、狼を家に招いき入れました。
そして狼に言いました。
「この家は、セメントと水と細骨材と粗骨材を混ぜ合わせてコンクリートにして、木の板で型枠を作って流し込んで作ったんだ」。
子豚たちも狼も全く話についていけません。
しかしそんなのお構いなしにル・コルビジェは続けます。
「コンセプトは、カニの甲羅をモチーフに自由で彫刻的な独特な造形にしたんだ。鉄筋コンクリートだからこそできた形なんだよ」。
何を言っているのかさっぱりです。
「シェル構造で作ったうねった屋根とそれを浮かせるように支える厚い壁には、ランダムにたくさんの窓をつけて、いろんな光が差し込むようにしたんだ。窓には僕が書いた絵を色ガラスをはめこんでとっても綺麗でしょ?」
・・・・・・
「思い壁を軽く見せ、軽い屋根を重く見せるっていう逆説的な建築技法を用いたんだ。自由な形態だから見る位置によっていろんな姿になるから、この場所の風景を新しく見せることができたと僕は思うんだ」
狼は、その知識量の差に悔しくて悔しくて逃げ出しました。
こうして狼がいなくなった子豚たちは『コンクリートでできた不思議な家』で仲良く幸せに暮らしました。
*******<完>********
『ロンシャン礼拝堂』
「ロンシャン以前にロンシャンはなく、ロンシャン以後にロンシャンはないでしょう」。 槇文彦
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