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都水のノスタルジア_第11話 【中間発表】
三浦半島の海岸沿いにある大学のセミナーハウスに北里研究室のメンバーが集まっていた。逗子駅からバスで10分程のところにある。
欅容輔は北里研究室のメンバーの一人である梅田祐太郎とセミナーハウスの屋上テラスで煙草を吸っている。
「先生何時到着だって?」
「14時って言ってたけど。」煙草をふかしながら梅田が答えた。
時計を見る。今はまだ朝の11時42分だった。さっき時計を見てから5分も経っていない。
今日は【卒業設計の中間発表会】である。北里研究室では毎年このセミナーハウスで合宿を行うことが行事になっている。
北里教授は勿論だが、同大学院生の先輩達も全員集まることになっている。その全員が4年生の案に対して意見を好き勝手ぶつける会なのだから、当の4年生にとっては、よっぽど褒められでもしない限り気持ちの良い会ではない。
普段、相談した時には考え方を改めるようなことを言う先輩達も、今回ばかりは旅行気分であるから、尚更、怖い。
もとより本当は、昼食を取ったらすぐに発表会が始まるはずだったため、4年生のメンバーは夜にある、飲み会の買い出しを済ませて、11時前にはセミナーハウスに到着していた。
ゼミ長である上森に、仕事の都合で14時になりそうと先生から電話があったのは、4年生が到着した11時ごろだった。
「それまで待機か。」
発表の準備を事前に済ませても尚、暇を持て余していた。
「先輩達は12時過ぎに着くみたいよ。」
梅田はそう言いながら、煙草の火を消す。2人で部屋に戻ることにした。
早起きのため仮眠を取る者、発表の練習をするもの様々であったが、14時を過ぎても北里教授は来なかった。連絡もない。
15時を回ったときだろうか、北里教授から司先輩に電話があった。
どうやら、「仕事のトラブルの関係で行けそうにないから、先輩達だけでやってくれ」とのことだった。
司先輩にそう言われ、容輔は内心ホッとしていた。前回のゼミからほとんど進展がなかったからだ。教授に対する発表を先延ばしにできたことに喜ぶものも容輔だけではない。
「じゃあ早速はじめようか」と司先輩に言う。
4年生のメンバーはセミナールームの2階にある会議室に足を運んだ。
発表順番はここでも名前の準備だった。
いつものようにトップバッターの今泉はパソコンの前に行くと、プロジェクターにスライドを表示させ、プレゼンを始めた。
内容としては、第1回のゼミから大きく変わったわけではない。【都市の再生】がテーマだった。
【問題点】や【解決】方法のアイデアとして増えたことは、「現在オフィス街だが、歯抜けのように空きビルとなってしまっている東京都神田のオフィス空間の有効活用」だ。更に【近隣〇〇論】を唱え、少子高齢化や人口減少によりコンパクトシティ化する未来の東京において、住民にとって本当に必要なものを歯抜けに当てはめて行くと言う提案にまとまっていた。
かつて小学校を起点としていた「近隣住区論」をモジって、新たな提案していこうという構想に、先輩たちのウケはかなり良かった。
「建築で解決する何か、〇〇に当てはまる部分によって全てが決まる」と意見が出たが、考え方やアイデアとしては合格点だ。
「じゃあ次行こうか。」司会進行の司先輩が促す。
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