迷子の花火大会(HANAちゃんストーリー第2話)
毎年夏になると、田舎のおじいちゃんの家に遊びに行く。
小学2年生になった僕は、はじめて1人でおじいちゃんちに泊まることになった。
おじいちゃんちに行くこの時期は決まって、花火大会が開催される。
デパートもゲーセンも近くにないおじいちゃんちはとても退屈だった。だからと言って、都心にある自宅に帰りたいわけでもなかった。
両親は共働きで、お母さんも帰りが毎日遅かった。なので僕は、1人でコンビニ弁当を温め、1人で塾に行き、誰もいない部屋に帰っていくのだ。
若干8歳にしてほぼ1人暮らしのような生活をしていた。
ずっと1人でいると、何をやっても楽しくない。大好きなゲームをしても大好きなアニメを好きなだけ見ても、全然楽しくなかった。
だから、花火大会をおじいちゃんと見るのはとても楽しみだった。
河川敷から見上げる花火はとても迫力があって、退屈な気持ちも一緒に打ち上げてくれる。
おじいちゃんと2人、歩いて河川敷へ向かう。
小学生になった時からおじいちゃんは、手を繋いでくれなくなった。
沢山の人で賑わう土手の上には多くの出店があった。
人ごみをかき分けながらおじいちゃんはどんどん先に進んでいく。
「待って。」
何度もおじいちゃんに声をかけるが耳が遠いのかグングン進んでいってしまう。大人に押しつぶされながら、出店の花道を越えるとおじいちゃんの姿がなかった。
「あれ?」
ひとりぼっちで心霊番組を見た時のような恐怖に襲われた。
「おじいちゃん?」
僕は叫びながら、恐怖から逃げるように走りまわった。
気が付くと、見たこともない森の中に迷い込んでしまった。
「おじいちゃん・・・」
僕は泣きながら、お化けにしか見えない木の下に座り込んた。
「うっうっ・・・おじいちゃん、なんで措いていくの?うっうっ・・・」
どの位泣いていたのだろうか、しばらくすると、僕の頬をなにか暖かいものが触れた。
驚いて顔を上げると、フワフワの犬がペロリと僕の頬を舐めた。
「なーふぃー泣いてるの?」
くりくりな目が僕を心配そうに見ている。
「おじいちゃんとはぐれちゃって・・」
フワフワの犬はニコっと笑い、
「なんだ、そんな事かぁ。こっちだよ。はなちゃんについてきて。」
と、2本足で歩き出した。
恐怖で訳の分からない僕は犬が2本足で歩いている事に違和感さえなかった。
しばらく歩くとおじいちゃんが河川敷で1人座っている。
「ほら、あそこ。善次郎さんいるよ。」
「おじいちゃんを知っているの?」
僕はここで初めて普通の犬ではない事に気が付いた。
「もちろん、知っているよ。はなちゃんはね、子どもだった善次郎さんに、助けてもらった事があるんだ。そのおかげで、とっても幸せな人生だったよ。それからずっと、善次郎さんを見守っているんだ。困った事があったら、絶対に助けるよ。はなちゃんにとって善次郎さんはとても大事な人なんだ。あっ!それともうひとつ、君はひとりぼっちじゃないよ。」
「えっ?」
「大丈夫。ちゃんと見ていてくれる人はいるよ。善次郎さんはいつも君の心配ばかりしているよ。善次郎さんにとって君はとても大事な人でしょ?ほら、じゃあね。」
はなちゃんに背中を押されて1歩前に足が出ると、そのまま自然と2歩3歩と進んでいった。
「おじいちゃん!」
僕が大きな声で呼ぶと、
「おお、待っていたぞ。」
と嬉しそうに空を見上げている。
「うん。」
「じいちゃんはお前を信じているぞ。辛くなったらいつでもじいちゃんのとこに来い。」
「うん。ありがとう。」
口数の少ないおじいちゃんと僕は、広く真っ黒な空に浮かび上がる大きな花火を黙ってじっと眺めていた。
涙が零れないように。
あれから10年、僕はまた、おじいちゃんちに来ている。
おじいちゃんとあの不思議な犬に会うため。
「僕、決めたよ。」
おじいちゃんのお墓の前で手を合わせ、僕は夢を追う覚悟をした。
見ていてね。
終わり
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