夕日に願う(HANAちゃんストーリー第18話)
付き合って1カ月。
今日は彼とデパートデート。
お店をあちこち見て買い物、
その後ペットショップで子犬たちを見た。
シーズーの子犬のガラスにくっつける肉球が可愛くて、ずっと見ていた。
さすがに買う気もないのに見過ぎだよと、彼がご飯へ誘ってくれた。
フードコートでお互い好きなものを注文。
私はうどん、彼はチキンステーキ。
お腹もいっぱいになって、そのまま2人で音楽を聴いた。
それから小腹が空いたので、アイスを食べた。
冷たかったけど、火照った体に丁度良かった。
また少し買い物をして、帰ることになった。
エレベーターに乗った。
すでに老夫婦がエレベーターに乗っていた。
私と彼は顔を見合わせた。
彼は口パクでこう言った。
「すごいね」
私も口パクで返した。
「すごいね」
一緒にエレベーターに乗っている老夫婦は、お揃いのシルクハットを被っていて、肩が尖ったロングコートを羽織っていた。
黒と赤で、色違いのお揃い。
スクリーンから飛び出してきたようなその老夫婦に、私たちは見とれていた。
あっという間に駐車場に着いた。
「凄かったね、さっきのご夫婦」
「かっこよかったね」
「どこかの芸能人かな」
「憧れるね」
「憧れるの?」
と、笑いながら歩いた。
実は付き合うきっかけになったのは、お互い方向音痴だったからだ。
大学で迷子になっていた彼を案内するつもりだったけど、一緒に迷子になってしまった。私と彼は似ている。そんな事が彼を気になり始めたきっかけ。
デパートの駐車場で私たちはまた迷子になった。
止めたはずの車が見つからない。
老夫婦の話に盛り上がり、どこに車を置いたかをすっかり忘れてしまった。
「どこに止めたっけ?」
「どこだっけ?」
数時間前を記憶を蘇らせ、数十分かかってやっと車までたどり着いた。
「あったぁ」
「よかったぁ。これで帰れるね」
「そうだね」
そう安堵しながら車に乗り込んだ。
なのに、運転席の彼が驚いた様子でこちらを見ている。
「どうしたの?」
彼は、隣の車を指差す。
隣の車を覗き込むと、エレベーターで一緒になったシルクハットの老夫婦が乗っていた。
私たちは顔を見合わせて大喜びした。
「また会ったね!」
「会ったね。しかも隣!」
「凄い偶然」
「ほんと」
そんな他愛ない事で笑っていた。
帰りの夕日が差し込む車の中で、私は祈った。
何でもない日常が、これからもずっと続きますよに・・・
終わり