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ベーシックインカム最悪シナリオの思考実験【雑記】

ベーシックインカムのようなラディカルな社会変革を提案すると「誰も働かなくなって、限られた食料を奪い合うための略奪や殺人が横行するディストピアが訪れる!」的に最悪のパターンを想定して議論がされることが多い。

なぜか悲観的なシナリオは現実的なシナリオとして受け入れられる傾向にあり、楽観的なシナリオは非現実的なシナリオとして受け入れられる傾向にある。なるほど、悲観的なシナリオを想定しておいた方が、精神的ダメージは少ないかもしれない(「思ったよりも大変」よりも「意外とたいしたことないな・・・」の方が精神衛生上良い)。とはいえ、それは悲観的なシナリオの方が現実的である根拠にはならないし、過度に悲観的になり行動できなくなることも避けなければならない(車に轢かれる可能性があるから家にこもる人は不幸である)。

なら、もし悲観的なシナリオがやってきたときに人がどう振る舞うか、現実的にはどうなのかを考えてみたい。

まず僕はそもそもベーシックインカムによってみんなが働かなくなり、衣食住が提供されなくなり、お金が紙くずになり、なにも買えなくなるという未来はあり得ないと考えるが、ひとまずそうした未来が訪れたと仮定してみよう。

そのときに、あなたがどんな風に振る舞うかを考えて欲しい。


Q.仮にベーシックインカムによってみんなが仕事をやめ、食べ物が生産されなくなり、子どもや老人がそこら中でバタバタと死ぬ状況になったら、あなたはどうする?

  1. 鼻くそをほじりながら黙って見ていて、食べ物ができたら「よこせ」と言う。

  2. 泣き叫ぶ母親や子どもから食料を強奪する。

  3. 空地や耕作放棄地を活用して食糧生産に取り組む。


さて、ここでは3を選ぶ人が大半であろう。

ただし、彼らは次のように言うかもしれない。「たしかに私は3を選ぶが、ほとんどの人はそうではあるまい。キリギリスのように怠けたあげく食糧だけ得ようとするフリーライダーや、人が丹精込めて育てた作物を強奪し独占しようとするギャングで社会は溢れかえるだろう」と。


では、次の質問をしてみよう。

Q.あなたの友達や家族、同僚、取引先、知り合いなどのうち、1や2を選びそうな人がいるだろうか?

ほとんどいないか、いたとしても1人か2人ではないだろうか。サボる人はそれなりにいるかもしれないが、強奪しようという人はいないだろう。

そもそも、もし強奪する人が大半なのであれば、被災地やホームレスに向けた炊き出しはトラブルまみれになっていなければ辻褄が合わないし、レッドブルを配る行列は我先にと群衆が群がり、レッドブルのお姉さんは暴力に見舞われていなければおかしい。また、ビュッフェ形式のレストランでは、あらゆるところで口論が巻き起こっているべきだろう。しかし実際はそうではない。みなが礼節をもって分け合うのである。


では、次の質問。

Q.もしあなたが食糧生産を怠けてフリーライドするなら、そのときどんな気分だろうか?

  1. あー、なにもせずに済んでラッキー! 俺のために周りの奴らを働かせられるなんてサイコーだぜ! 

  2. やっべ、サボってるやつだと思われる。気まずいなぁ・・・。

  3. ボーっと見てるくらいならいっそ手伝った方が楽やわ!


1を選ぶ強靭な精神の持ち主など、おそらくこの社会にはほとんどいまい。多くの人は、そのような場面に陥ったなら2か3の心境に陥るだろう。

では、実際に食糧生産に取り組むとして・・・


Q.もし食糧生産に取り組むなら、そのときあなたはどんな気分で取り組んでいる?

  1. 「だりぃわ、死にかけのババアや子どもの分まで、なんで作らなきゃならねぇの?」と不満タラタラ。

  2. 不満はあるが、「これは仕方ないことなんだ・・・」と心を殺しながら耐える。

  3. 「人が死んでいくのを見過ごすわけにはいかない!」という正義感に燃えている。あるいは「みんなで汗を流すのは気持ちいぜ」という快感を得ている。


多くの人は2と3の間で、たぶん3寄りではないだろうか。


では続いて・・・


Q.もし、あなた一人が正義に燃えて食糧生産をしているとして、あなたの周りの人はどんな反応をする?

  1. 「ふーんなんかあいつ頑張ってるけど関係ないし、ゲームでもやろーっと」

  2. 「あーなんか手伝わなかったら後からぐちぐち言われそうだし、手を抜きながら手伝ってるふりでもしよか」

  3. 「人助けのために動いている人がいる! 俺もなにか協力できないだろうか?」


これも2と3の間で、3寄りだと考えるのが妥当であろう。

では続いて・・・


Q.あなたがもともと農家であったため、食糧生産において指導的立場になった。そのときどのように感じる。

  1. 俺はプロなんだから、他の人よりたくさんの食料を手にし、豪華な住まいに住む権利がある。たとえそのせいで他人が飢えようが知ったことではない。

  2. まぁ贅沢したいとまでは言わないけど、ちょっとご褒美あると嬉しいし、みんなに褒められるとモチベーションがあがるなぁ。

  3. 褒められるかどうかは関係ない。やりたいし、やるべきだからやっているだけだ。報酬も生きていくのに必要な分以上はいらない。ほかの困っている人に分け与えて欲しい。


これも2と3の間であろう。


では・・・

Q.食糧生産が失敗続き。あなたならどう感じる?

  1. つまらないからやめる。

  2. 自分のせいにされないように、誰かに責任を擦り付け、その人をつるし上げる。

  3. 責任の押し付け合いをしても仕方がないので、試行錯誤しながら成功のために努力する。


・・・まぁ3であろう。



・・・とまぁ雑にみてきたが、順当に考えれば「殺人や略奪で溢れかえったディストピア」と言うのは中二病の妄想と結論付けて問題ないだろう。細々したトラブルは当然生じ得るだろうが、所詮細々したトラブルである。

別にあなたやその周りの人々が特別に善良で、礼儀正しいわけではない。だいたいの人は善良で礼儀正しいし、人からものを奪ったり、人を傷つけたら罪悪感を覚える。困っている人を見たら助けたくなるし、自分がなにもできないとなるともどかしさを感じる。そんな普通の人で、この社会は溢れかえっている。

こうした常識的な感覚をもってして、きちんとベーシックインカムについての議論をすべきであろう。中二病の発想で議論すれば、僕たちはなにをやっていようがディストピアに急転直下せざるを得ないのだ。

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久保一真【まとも書房代表/哲学者】
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