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東京旅の感想(前編)【出版社を作ろう】

2泊3日の東京遠征を敢行した。いろいろと目的はあった。本の注文をしてくれた書店さんを回ったり、1月のイベントで会場をお借りするGoodRackの下見をしたり、まとも書房界隈の人びとに会いに行ったり。

といっても、さほど予定を詰め込んだわけではない。余談だが、僕は予定を詰め込むのが苦手な男である。タスクを詰め込むのは苦手ではないのだけれど、予定を詰め込むのは苦手だ。タスクとは自分の裁量で、自分の好きな時間で処理することができる。10分で終わると思っていたものが20分かかってもいいし、興が乗ってきたら「やっぱもっとやろう」と時間を気にしないことも可能だ。一方で予定の方はたいていの場合、時間を動かせない。詰め込みすぎるとせっかく興が乗り始めても「あ、そろそろ次の予定がありまして・・・」とそそくさと帰らなければならないこともある。気分に合わせていくらでも調整できるのがタスクであり、そうでないのが予定だ(タスクは遊び的で、予定は労働的になりやすい傾向があると思う)。

いきなり脱線したが、そんなこんなで僕は2泊3日のわりにそんなにいろんなことはしていない。しかも大きな目的のうちいくつかが空振りに終わっている。というわけで、盛り上がりに欠ける記事になるかもしれないが、できれば根気強く付き合ってほしい。


■1日目

・ジェネリックよりも本家

1日目に僕が入れた予定は一つだけ。茨城県にある生存書房さんにお邪魔することである。生存書房さんは、先月に『14歳からのアンチワーク哲学』を仕入れてもらっていたし、『労働廃絶論』も注文したいというお話をいただいていた。そこで、代金の回収と納品をかねて、会いに行こうと決めたのである。僕が行くとなると、店主の知り合いのとあるアナキストの方も同席してくれることになった。どうやら、その方が『14歳からのアンチワーク哲学』の存在を教えてくれたとのことで、僕にとっては貴重な縁をつないでくれた人である。

お邪魔する予定は18時ということになっていた。朝、大阪を発てば十分に余裕がある。かと言ってあちこち動き回る余裕はない。僕は納品するための本をパンパンになるまで鞄に詰めているのである。せいぜい通過点のどこかにあるお店で食事をとるくらいが関の山だ。

なので、僕は東京ならではのグルメに思いを馳せる。とうぜんのことながら、真っ先に思い浮かべるのはラーメン二郎である。関西には、京都一乗寺に一軒あるのみで、ほかは二郎インスパイア系と呼ばれる、二郎っぽいお店・・・つまりジェネリック二郎である。むろん、ジェネリック医薬品がそうでない医薬品と同じ効果を持つように、ぶっちゃけて言えばインスパイア系でも本家の味に勝るとも劣らない店もあるし、本家よりも本家らしいところもある。とはいえ、ジェネリック医薬品じゃ満足できない老人がたくさんいるように、僕も「本家二郎」というブランドを崇拝しているわけで、せっかく東京に来たのだから行きたい。幸いにして品川駅から少し行ったところにラーメン二郎の本店があったのでそこを目的に設定。グーグルマップで営業時間をチェック。「よし間に合う」ということで、いざ参る。


なんでいまやねん。


さきほど僕は荷物が多いからあまり歩き回れないと書いたわけだが、実を言うとラーメン二郎のために少し無理をした。三田本店は新幹線の到着した品川駅から乗り継いで二駅進まなければならなかったし、駅から10分くらいは歩いた。それなりにめんどくさいが、二郎食べたさに歩いたのである。しかし、12月の寒空のした、僕の欲望はくじかれてしまった。そして、大阪でも散々食べたことのある三田製麵所でつけ麺を食べた。僕の心と体は冷え切っていたが、つけ麺はいつものように「冷」を頼んだ。温かいスープが僕を包んでくれた。


・左翼の罠にかからなかった人たち

さて、気を取り直して茨城県土浦に向かうことにする。実を言うと僕は、東京都心から土浦までの所要時間をさほど真面目に調べてはいなかった。結論から言えば、僕は茨城県を舐めていた。「茨城? まぁ関東圏だし、せいぜい大阪と奈良くらいの距離でしょ?」と思っていたのだ。ところが、東京都心から茨城県土浦まで距離にして60キロ以上ある。ちなみに大阪~奈良間はせいぜい30キロほど。僕がイメージしていた倍以上の距離があった。東京都心から時間にして1時間半から2時間弱くらい。遠い・・・。

僕は移動を見越して、旅の友を用意していたわけだが、残念ながら行きの新幹線で読み終えてしまっていた。ダラダラとYouTubeをみたり、車窓からの眺めをみたりしながら、僕は土浦へ向かった。

そして夜の六時前、なんとかたどり着いた(外観の写真は撮り忘れていた・・・)。

だめ連本の横に置かれている『14歳からのアンチワーク哲学』。

なんやかんやと自己紹介をしたり、『労働廃絶論』を渡したり、清算をしたりしているうちに、例のアナキストの方がやってきた。その後、2時間くらいはお店で話し込んだ。

生存書房はいわばオルタナティブ系の独立書店である。アナキズムやコミュニズム、あるいはもっと広く社会運動系なんかの本が取り扱われていて、新品もあれば中古もある。僕のような人間からすれば天国のような場所だ。それはお客さんとしてもそうだし、出版社としてもそうだ。こういうお店なら僕の本には興味を示してくれて、仕入れてくれるように思う。しかし、そんなお店がほかにどこにあるのか、僕にはわからない。お二人は「生存書房みたいなお店なら、〇〇があるよ・・・あと、〇〇も興味持ってくれるんじゃない?」といろいろと教えてくれた。ありがたくメモをとるも、どうやらこういうお店は関西にはさほど多くないということに気が付く。こういうお店がもっとあったなら『14歳からのアンチワーク哲学』も『労働廃絶論』も置いてくれるだろうに・・・。教えていただいたお店は東京にいる間たいして回ることができなかったが、次に東京に行くときに、回ってみようと思う。

僕はアナキズムやコミュニズムの界隈の話題にはさほど詳しくないのだが『14歳からのアンチワーク哲学』の根底にある思想は、ほぼアナキズムだと思っているので、この界隈の人たちがまず興味を示してくれることに期待している。だから、界隈に詳しい二人の話は、とても参考になった。

印象深かったのは、お二人の姿勢である。「〇〇って知ってる?」と聞かれて、僕は「いや知らないです」と答えることが多かった。それにたいして「それくらい知っとかないと・・・」みたいな態度をとるのではなく、むしろ知らないことに感心しているような印象があったのだ。それはおそらく、自身とは異なる人生を歩んできて、異なる本や価値観に触れてきた人間に対する興味であり、敬意であると、僕は受け取った。また、さほどアナキズムにどっぷりつかっているわけではない人間から『14歳からのアンチワーク哲学』という本を書いたことに対する驚嘆みたいなものもあったのではないかと思う。思想をドグマ化させて、「それくらい知っとかないと・・・」的な態度でマウントを取り、「非権威」の思想のなかで新しい権威を生み出そうとするのが左翼が陥りがちなパターンだが(これを僕は「左翼の罠」と呼んでいる)、お二人はそうではなかった。左翼の罠にはまる人と、ハマらない人のちがいはなんなのだろうか? これは一つの研究テーマになりそうな問いである。

アナキズムはアナキストの専売特許ではなく、むしろ普遍的に存在する人間や社会に関する原則である。多くの人は、アナキズムという言葉を知らないまま、アナキズムを実践している。ゆえに僕はアナキズムについて精緻な知識を身に付けることが不可欠だとは思わないし、アナキズムという言葉を聞いたこともない人にも『14歳からのアンチワーク哲学』を届けたい。つまり、左翼と世間の架け橋になりたいのである。おそらくそれができるのはブレイディみかこか僕くらいではないかと思う。僕は『14歳からのアンチワーク哲学』がアナキズムであると気づいた左翼の人たちの力を借りながら、世間の人たちにもアプローチしていきたい。その道はまだまだ模索中である。

サイン本を書く。いい加減、カッコいいサインを考えてみたい。
労働廃絶論にも。サイン本が買えるのは生存書房だけ!
店内でパシャリ。

さて、夕食をともにし、駅まで送っていただき、10時ごろ、僕は土浦を後にし、2時間ほど常磐線に揺られ、新宿歌舞伎町の東横インにインした。


■2日目

・物を送る方法はわからん

旅をするときには、ほんの少しの不安がある。「旅行中に本の注文が入ったらどうしよう」である。注文が入れば僕が発送しているわけで、家にいないと発送ができないのである。だが、発送は注文から数日後とサイトで宣言しているわけで「別に家に帰ってから処理すればいいかな?」と考えていた。

そんななか、1日目の夜に、夜鳥くんが「注文したよー!」と連絡をくれた。会ったこともない人ならまだしも、夜鳥くんにはすぐに届けたい。というわけで、2日目の朝は発送用の資材を入手し梱包作業をしていた。いつも僕はクリックポストを使っているが、クリックポストは伝票みたいなものを自分で印刷しなければ使えない。つまり、プリンターが手元にない今、別の方法を使うしかない。よくわからないので、とりあえず梱包だけして郵便局に行き、「どうやって送ればいいですか?」と聞いた。「普通郵便です」と言われ「じゃあそれで」と僕は軽く答えた。あとから調べてみると普通郵便は3~4日かかるらしい。だとすれば家に帰ってからクリックポストで送るのと変わらなかったような気もする。夜鳥くん、ごめん・・・(この文章を書いている最中に、本人から「届いた」との連絡があって、一安心)。


・初GoodRack

朝イチで発送を終えて一旦ホテルに戻った。この日の予定は三件あったが、ぜんぶ午後以降だった。幸いにして東横インは連泊で取っていたので、チェックアウトする必要がなく、午前いっぱいまでホテルでダラダラと過ごすことができた。そして1件目の予定のため、高田馬場へ歩いて向かうことにした。

住宅地にあるので、マジで見つけるのに苦労した。

なにをしにきたのかといえば、イベントのための下見と打ち合わせである。

正直、ちょっと緊張していた。そもそも僕はプロデューサーである哲学チャンネルさん経由で、GoodRackでのイベント開催をお願いしていた。彼は本の解説も書いてくれているし、僕の考えを理解してくれている方だからよかったのだが、店長さんやオーナーさんはそうとも限らない。なんやかんやと快諾してくれたものの、そこに至るまでの間に僕はグループチャット上で、条件交渉も含めてややこしい振る舞いをし、強引に話を進めていたところがあった(詳細は割愛・・・)。しかも扱うのが『労働廃絶論』とかいうあきらかに胡散臭い本である。本人も「労働撲滅!」とか言っている胡散臭い奴である。まず間違いなく良い印象は持たれていない。

とはいえ、話をしてみた結果、僕は「わかりあえた」という感想を抱いた。名刺を渡し、挨拶し、一通りオペレーション的な話をしたあと、店長さんは僕にたいしてやや遠慮がちに質問をしてくれた。

コレってどういう本なんですかね・・・? 「労働廃絶」って、真面目に働いている人が読んだらどう思うんですかね・・・?

待ってましたと言わんばかりの質問である。正直、変に理解したつもりになられるよりは、こうやって率直な疑問をぶつけてくれるのが一番うれしい。

僕は嬉々として、こんな感じの説明をする。

むしろ、真面目に働いている人の方が、共感してくれたりするんですよ。社会貢献したいだとか、良い物をつくりたいだとか、組織のためになることをしたいだとか、そういうモチベーションを持っている人ほど、この社会では矛盾を感じ、苦しんでいます。そのモチベーションを労働ではない形で発揮できる社会を目指そうというのが、僕の提案なんです。
僕たちは、誰かの役に立つことを苦しいことだとか、やりたくないことだと想像しています。だから、労働やお金で強制されなければ誰もやりたがらないのだと考えています。しかし、本当にそうなのか? 実際に労働の矛盾で苦しんでいる人たちは、人に貢献したいという気持ちを上手く発揮できないことに苦しんでいるのではないか? だったら強制されたりするのではなく、もっと自由に自発的に人に貢献できるような社会の方がいいのではないか? そんな社会で行われる社会貢献は、もはや労働ではなくて遊びのようなものなのではないか? だから、労働は撲滅できるし、すべきだと考えるのです・・・・みたいなことが書いている本なんですよ。

「あ、そういうことだったんですね」「私も人のためになにかをするのは好きなんです」的な反応が返ってきた。たぶん、なんとなく誤解は解けたと思う。僕が「労働なんてクソっしょ! ダラダラ過ごせばいいじゃん! 寝そべりサイコー!」みたいな退廃的な思想の持ち主ではないことが伝わったはずだ(いやまぁそういう思想でもあるんだけどね)。

それにしてもいい店である。写真で見るよりも開放感があって広い。「採算とれる?」と不安になる席数の少なさである。
ついでにコメントを書かせてもらった。カードの配置がわからん・・・。

余談だが、お店の状況についてもいろいろと話を聞かせてもらった。店長さんのお話によると、とにかくお客さんが「」とのことである。

席料やチャージ料を一切取っていないので、極端な話コーヒー一杯でオープンからクローズまで粘ることもできるわけだが、お客さんはだいたい2~3時間ほど集中して本を読んでいくことが多く、それ以上長居する場合にも、そのぶん注文をしてくれるようなケースが多いらしい。ぺちゃくちゃと話す高校生や、カタカタとキーボードを鳴らすビジネスマンもいないとのこと。むしろ、込み合ってきたらサッと店を去るような配慮もあるそうだ。紳士淑女の集いである。

おそらくこの「粋」は、「座席は2時間制となっています」だとか「込み合ってきた場合は席をお譲りください」だとか、そうした張り紙を出し始めた途端になくなってしまうデリケートなものなのだと思う。サッと粋な配慮を見せつつも、それをおくびにも出さず、なおかつお店の側も過剰に反応するわけではない・・・。誰かが大声を出したりせずとも、それぞれの自発的な配慮とアプローチによって阿吽の呼吸で生まれてくる「粋」。これは「空気」とは似て非なるものだと思う。空気は強制的に従わされるものだが、粋は各々の自由な意志によってつくりあげられる。これもまた、一つの研究テーマになりそうだ。

さて、なにはともあれ打合せを終えてお店を後にした。次の僕に待ち受けているのは、一日目のデジャブであった。

(続く・・・・)

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久保一真【まとも書房代表/哲学者】
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