【シーソーシークワサー 33 あたたかな夜 】
↑前回までのシーソーシークワーサー は……奇跡的な再会により、ようやく絢に会えた凡人だったが、彼女の日常に触れ、部屋に入るなり……。
【シーソーシークワサー 33 あたたかな夜 】
たった一滴の水滴が滴り落ちるようなインスピレーションが降りてきたら書けるものだと、鮫島先生は言っていた。その感覚を持ち合わせていなかった絢は、それが無くなったら作家はどうなるのかと不思議でたまらなかった。作家の言うことなんて、10%くらい理解できればまだいいほうだ。
隣にいる鮫島先生お気に入りの春未くんが少し動くたび、寝たふりがバレるんじゃないかと絢はずっと目を閉じていた。シングルベッドは二人分の空間を持たない。一人分の体積や重量の発する熱量がこんなにも伝わりやすいものだとは思わなかった。窓際の春未に狭くて寒い思いをさせたくはなくて、離れなかった。けれども、夜中2時を過ぎたあたりから、布団の中が暑くなってきた。目線の先には、静かなデジタル時計。その後ろには隠した日記があった。
春未の熟睡を確認すると、彼の腕からそっと、さっと抜け出した。その暖かさが逃げていかないように布団を整えた。テレビの前のテーブルに向かう。
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