シーソーシークワサー【12 ふたりとふたりの秘密】
【いままでのあらすじ】
沖縄でNo.1ホストだった春未(はるみ)こと、伊佐敷凡人(いさしきぼんど)。全てを極めたある日、全てを捨てて、島を出る。行くあてもなく、東京の出版社で働く絢を頼って、上京する約束をする。あえて時間をかけ、絢のいるそこに向かいながら旅をすることにした春未は、船で鹿児島に上陸し、ゲストハウスに宿泊した朝、留美とその子、しゅんちゃんに出会い……。
【12 ふたりとふたりの秘密】
壊れかけの庭のスプリンクラーが、水を出したり、止まったり、不安定なリズムを刻みながら、それでも回り続けている。木漏れ日は、春未の腕にじりりと焼きつき、朝からその熱を伝えてきていた。
一度ワルを教えたら、何度も繰り返している。先程から、何度も俺の顔を確認しながら、しゅんちゃんは屈託のない顔でスプリンクラーの出口を抑えて遊んでいた。それでも俺は、さっきからずっと笑ったままだ。モーニング会場で母親に朝から叱られ続けていたいい子ちゃんよりも、この瞬間の方が、子どもという子どもの姿だ。
中庭から朝食会場を眺めれば、はめ殺しの窓を通り抜けて留美と目が会った。彼女がその視界の中に俺を捉えながら会釈する瞬間は、彼の母親と言うよりは、ひとりのしなやかで艶のある女になる。
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