シーソーシークワサー【19 ミライタクシー 】
↑前回までのあらすじ
【シーソーシークワサー 19 ミライタクシー 】
ラルちゃんタクシーの運転手はホークス推しの島本さんだった。
どうだろう。もしかしたら、出会ったことももない自分の父と同じ年頃かもしれない。
ハガちゃんファミリーと別れたあと、車内では開口一番、野球をしたことはあるかと問われ、小学生の頃は放課後に野球をよくしたと答えた。そうか、と返してきた島本さんは、熱狂的な野球ファンではないとわかると、一瞬寂しそうな顔を見せたが、すぐに別の話題に切り替えた。
この辺は長年の感覚なのだろう。空港までの50分を乗客には飽きさせず、疲れさせずにいるコツを掴んでいるのかもしれない。
凡人が沖縄でホストをしていたのは約20年。ラルちゃんタクシーの島本さんは運転手歴40年になるという。そのことに触れると、意外な答えが返ってきた。
「20年過ぎたら、40年も同じことでね」
「そうなんですか?」
「にーちゃん、夜の仕事だったでしょ?」
「わかるんですか?その、鹿児島に来てから、カットもしたし、身なりも整え、旅支度もきちんとしたつもりだけど、まだ抜けてないのかなぁ」
「匂い、と言うかね、オーラみたいなもんかな。たまちゃん、また面白い人を捕まえたなって。ハガちゃんの家からタクシーの予約が入る時は大抵、楽しみながら、今度はどんな人かなって、そこに向かうんだよ」
「たまちゃん……。あの子、確かに不思議な子でした。遠慮というか、泊まらせてもらうこっちが気が引けてしまうくらいでした。夜、隣にいる背徳感すら感じさせない子だった」
「ははは、あの家から乗ってくる人はみんなそう言うよ。信じられないってね。あの子にしてみたら、男も女もないんだろうな。可愛らしい顔してんのにね」
「そんなに人の出入りが多いんですか?」
「ああ、昔、まりえちゃん、あ、たまちゃんのお母さんがホストファミリーしてたんで、昔からあの家にはいろんな人が来てた。海外からもね」
「人に慣れてるんですね。それでいて、人を見ていないわけじゃない。って自分でいうのも烏滸がましいのですが、そういう温かな家で、僕自身久しぶりに寛いでしまいましたから」
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