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シーソーシークワーサー Ⅱ【 72 一宿一飯ウォー】
【シーソーシークワサーⅠのあらすじ】
母を亡くし、その孤独感から、全てを捨てて沖縄から出た凡人(ボンド)こと、元のホストの春未(はるみ)。
一番に連絡をとったのは、東京の出版社に勤める絢だった。
絢に会うまでの道のり、人々との出会いで得たことは何だったのだろう。島に帰った凡人は、母亡き後の、半年間時が止まっていた空間に佇みながら、生い立ちを振り返っていた。
生前の凡人の母、那月は凡人を守って生き抜くために、様々な選択をする。
沖縄から遠く離れた本土の片田舎で育った凡人の母、那月。母の重圧に耐えかね、家を出た。家出少女を何も聞かずに受け入れたMasaとその妻、順子。Masaは那月に3ヶ月で売り上げを3倍にすることを条件に、次の日から衣食住の提供と引き換えに那月を自分の古着屋で働かせる。
その店に決まって現れる女とMasaの関係に気づいた那月。それ以外は満たされた労働環境のはずだった。店を出る決意をした那月が生きる術として選んだのは……
Ⅱ【72 一宿一飯ウォー】
忘れようと意識すると忘れることができない。それが人間だ。
今朝は、パチリと音がなったかというくらいスッキリした目覚めだった。遠くへ行こうとした訳ではないが、まだMasaの店の近くにいる自分が那月は不思議でたまらなかった。
「店番をしてくれるなら、靴屋の2階を自由に使っていい」
またMasaの自宅にいた時に見てしまった光景を見ることになろうが、那月は白髪の店主の言葉を受けることにした。
店は、「AN YO」。安易なネームングだが、足という意味の「あんよ」から取ったらしい。店主は犬伏剛と言った。息子も娘も上京して、世田谷にマンションを買い、しばらくは戻ってこないのだと言い、毎日売れもしない靴の棚の埃を落としては、テレビを見て過ごすのだという。
大阪駅から少し離れた、小さな商店街のアーケードの中央の角の靴屋。向かいは薬局、右隣は駄菓子屋、対角の角は定食屋に和菓子屋。どこも似たような空気が漂う。3軒先の肉屋からはコロッケの匂いが流れてくる。
「おっちゃん、助かります。ほやけど、いつまでもおられんと思う。今度は二十歳まで居れたらええとこ」
「今度は、って?」
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