シーソーシークワーサー Ⅱ【 73 日々、淡々と】
【シーソーシークワサーⅠのあらすじ】
母を亡くし、その孤独感から、全てを捨てて沖縄から出た凡人(ボンド)こと、元のホストの春未(はるみ)。
一番に連絡をとったのは、東京の出版社に勤める絢だった。
絢に会うまでの道のり、人々との出会いで得たことは何だったのだろう。島に帰った凡人は、母亡き後の、半年間時が止まっていた空間に佇みながら、生い立ちを振り返っていた。
生前の凡人の母、那月は凡人を守って生き抜くために、様々な選択をする。
沖縄から遠く離れた本土の片田舎で育った凡人の母、那月。母の重圧に耐えかね、家を出た。家出少女を何も聞かずに受け入れたMasaとその妻、順子。Masaは那月に3ヶ月で売り上げを3倍にすることを条件に、次の日から衣食住の提供と引き換えに那月を自分の古着屋で働かせる。
その店に決まって現れる女とMasaの関係に気づいた那月。それ以外は満たされた労働環境のはずだった。店を出る決意をした那月が生きる術として選んだのは……
Ⅱ【73 日々、淡々と 】
外からは見えている景色は、中にいるものは気づかなかったりする。中から外の景色に慣れてしまっているのか、受け止められないのか、それはわからない。18にしてそれを淡々と語るには、幼く、若者には説得力が伴わない。
それを打ち破るは、情熱だ。
犬伏は朝からそんなことを那月に言い残し、出かけていった。犬伏は日課のように、ちょうど9時にやってきて、それより早く店に来て掃除を始めている那月の背中に、昔話のような例え話のような独り言をつぶやきと、レジに釣り銭の2万円を補充する。そうして、今日も商店街のどこかにふらりと出掛けていった。
足元をすり抜ける風が冷たい。夏物のサンダルと白いスニーカーを奥に引っ込めると、店の奥で埃を被っていた茶色のショートブーツと、黒いスニーカーを一番前に出した。
「若者はたった3ヶ月で音を上げる」
昨日、犬伏が那月に放った言葉は、理由はどうであれ、満たされた環境のMasaの店を飛び出して来てしまった那月に刺さったままだった。
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