シーソーシークワサー 【10 フツーの彼女】
自分のくしゃみで目が覚めた。
そうだった。もう全てを捨ててしまったのだ。今、ここがあまりにも自然で、心地よくて、もうそこには居ないのに、まだ沖縄にいる錯覚を起こしてしまった。
半裸のまま、倒れ込むように寝落ちして、クーラーに冷やされるまま、あまりにも深い眠りに落ちてしまった後の目覚めは、風邪を引き込んだ朝の感覚に近い。足元に畳まれたままの掛け布団を羽織り、また目を閉じた。
浜音が聞こえるでもなく、喧騒の夜の街の匂いが追いかけてくるわけでもないのに、ぐるぐるとどこかで何かを考えている。昨夜はラインでたっぷり絢に甘えたのに、それでもどこかで何かを渇望している熱が、奥の方から湧き上がってくる。
ただ、まだ遠い。島を出たあの時のように、今すぐに起きて飛行機に飛び乗ってしまえば、すぐに彼女は時間を開けてくれるだろう。それを許さないのはどうしてか、あまりにも境遇が違い過ぎる自分への戒めか、彼女に会うまでのルートにつけた言い訳は、未だに、長い。
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