シーソーシークワーサー Ⅱ【64 ムシの殺し文句 】
【シーソーシークワサーⅠのあらすじ】
母を亡くし、その孤独感から、全てを捨てて沖縄から出た凡人(ボンド)こと、元のホストの春未(はるみ)。
一番に連絡をとったのは、東京の出版社に勤める絢だった。
絢に会うまでの道のり、人々との出会いで得たことは何だったのだろう。島に帰った凡人は、母亡き後の、半年間時が止まっていた空間に佇みながら、生い立ちを振り返っていた。
生前の凡人の母、那月は凡人を守って生き抜くために、ある決断をしていたのだが……
Ⅱ【64 ムシの殺し文句】
うんざりするほどの湿気を連れて今日も出勤する。入道雲がビルの遥か向こうに見えている。那月の実家はちょうどあの雲の下あたりにある。
虫の居所が悪いと八つ当たりをし始める母の無自覚さは重症だった。
はじめの1ヶ月間は捜索願いが出て、その手がここまで及んだら……と息を潜めて暮らしていたが、それも杞憂だった。母はもう追いかけてこないのだろう。あれほど管理されていたのに、娘が見えなくなった途端、それも忘れたように生活しているのかもしれない。
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