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シーソーシークワサー 【14 路上ガール】


【シーソーシークワサー 14路上ガール】

↑駅に向かう途中、美容室に入った春未はあることを思い出し……。


 すっきりした顔の男がひとり、鏡の前に立っていた。過去の全て切り落としてしまったほど、身軽になっている。「じゃあ、また」と慣れた社交辞令を言ったが、カルテまで記入した美容室に、もうここにも帰ってくることもない。
 「お鞄はどれでしたっけ?」と聞かれ、旅支度もせず、島を出てきたことを告げた。珍しいタイプの俺に、驚きの表情を隠せずにいたが、それでも最後まで一人の客として扱ってくれた美容師だった。


 いつまでもその場凌ぎのコンビニ頼りというわけにもいかない。そろそろこの旅に合う鞄と着替えを用意しよう。駅前のショッピングモールで一通り揃えることができるだろう。


 俺はまた、歩き出した。

 13時だと言うのに、駅前の人通りは疎らだった。俯いて歩く人ばかりが、気怠そうにすれ違う。同じ日本というのに、ひとつ海を越えた島の景色は、全く別世界のように思えてくる。
 
 −−ここは、どこでもない国、誰のものでもない島、当てのない旅、


 たった一人の声だった。
 通りすぎる瞬間に、その言葉を発した路上ガールがいた。誰も耳を傾けていないのに、どこに向けて歌っているのだろう。それでも、俺はそのフレーズに立ち止まった。観客がゼロからイチになったことを察した彼女は、タイトルを告げた後、ハッキリと俺の目を見て言った。

「ありがとうございました、『孤高トリップ』でした」
「いやぁ、よかった」
「ありがとうございます。美空ひばりさんと同じ漢字で『美空』と言います。今日はどこからおいでですか?」

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ど田舎そだちど田舎、 ゆる!がんそロハス! わかやまきみの町からの、 定期エッセイです。 ベリーブ爺…

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