『だから私は推しました』の言葉から、ファンの"無私"を考える
本noteは、2019年に執筆し、2021年にはてなブログで公開した文章を修正したものです。
2019年8月4日土曜夜、NHK総合よるドラ「だから私は推しました」がTwitterのトレンドに上っていた。
その検索先で劇中のとあるセリフを目にした。
それが冒頭のものである。
ここから先は、1ミリも同ドラマを観ていないが、上記のセリフに心動かされた1アイドルオタクの独り言であることをまず断っておく。
「○○が、みんなに大事にされてて嬉しい」
この言葉を見た時、痺れた。
そこのお前、そうお前だ、お前もそうだろう。
と、指さされた気がした。
何かしらのオタクをする人達の中には、こういった感情に身に覚えがある人も多いのではないかと思う。
"みんなに大事にされる"
この喜びには「私」が居ないように見える。
もしかしたら「みんな」に「私」が入るのかもしれないが、多分重きはそこにない。
「みんな」=自分以外の同担、他担、他グループのファン、自分の身内、グループのメンバー、スタッフ等の関係者、一般視聴者 etc…
であると捉えるのが自然だろう。
ゆえに検索上位に上がっていたあるツイートにも、無私の愛情の結果としてのセリフではないかと述べられていた。
では本当に、この言葉、感情に「私」は居ないのだろうか。
ないとは言いきれない、とわたしは思います。
なぜなら、好きなアイドルが「みんなに大事にされて」いると判断するのも、それを受けて「嬉しい」と感じるのも、ファン張本人なのだから。
アイドル本人が「みんなに大事にされて」いると思う基準と、外側から覗き見したオタクが「みんなに大事にされて」いると思う基準はまるで違うと思う。
まあこうなると個人が他の個人を完全理解するなど無理、みたいな大きな話にもなるが、ここで言いたいのはそういった規模の大きい事ではない。
わたしが応援するアイドル、村上信五さんはこう言う。
俺と結婚したいだなんて、俺の一体何を知ってるんだ、と。
俺とメンバーとの間だけで分かっていればいい事を、なぜファンに言わなければならない、とも言う。
ツボ過ぎて気が変になりそう。愛してるよ。
いや、わたしの感想はいい。
つまりアイドルが、ファンに伝える事などたかがしれているのである。
アイドルはファンに「知らせた方がいい」事と「知らせてあげても構わない」事しか言わない。
当たり前である。
あっちはショービジネスである。
「俺は/私は、みんなに大事にされてて幸せ者です」とはなかなか言わない。
言ったとしてもそれは概ねファンや関係者各位に感謝を伝えたいからである。
それだけでは足りない。
ファンは、同じグループのメンバー、全くファンではない一般人、果ては路傍の石にさえも、あの人に優しくあれ、あの子を愛してくれと願う。
少なくともわたしはそうだ。
そしてそれが叶ったと判断するのはファン。
それが叶って嬉しいのもファン。
視界の中心はアイドルだが、その実全てはファンの自己満足に収束する。
世界の中心はファンその人ではないか。
本当にあの人は愛されているのか。
本当にあの子はおざなりにされているのか。
本当にその褒め言葉はお世辞じゃないのか。
本当にあの人は幸せなのか。
本当は、あの人とその周りに作られた「愛されパフォーマンス」を見ているのではないか。
もちろん普段こんなひねくれた事を考えながらアイドルを見る事はないが、可能性として列挙した。
でも、たとえ実際が異なっていようと、ファンは自分の知りうる限りの情報から自分の心を満たす他ない点は事実である。
こうして考えてみると、本当にファンという1個体は孤独だ。
自己判断で推しにお金と時間を払って、アイドルを見て、勝手に幸せになるのだから。
アイドルとファンを繋ぐのは需要と供給の関係である。
数字と愛の関係である。
愛を失い、お金と時間の支払いをやめれば、いつだって切れる程度の縁である。
顔も知らない1人のファンがいなくなっても、あの人はわざわざ私のことを探し回ってくれはしない。
この人を応援すると決める瞬間も、この人をずっと好きでいられるだろうかと悩む時間も、この人から距離を置こうと手放す際も、全部ファンの一人芝居である。
ここまでつらつらと文句のようなものを垂れ流して来たが、わたしは村上くんとの関係に大変満足している。
幸いにも、今のところ彼の応援をやめたいと思った事もない。
どこまでも自分の幸福追求権を行使できるオタクというポジションはひどく居心地がいい。
欲しいものにお金を払い、見たいものに時間を払い、大好きな人に敬意を払う。
最高。わたしの幸せ、ここにあり。
ただ、冒頭のセリフを目にし、オタクは一見"無私"のようだが、本当の"無私"では有り得ないのではないのかなと思った。
その一瞬の感情の理由を、自分なりに解釈したかった。それだけの文章である。
随分長い独り言になりました。ここまで読んでくださった方々とその推し達に幸あれ。
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