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30分だけしか外出できない世界

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、時差出勤をしたりリモートワークをしたりする人が増えています。わたしはもう何年も在宅勤務のような状態なので、生活スタイルにほとんど変化はありません。ただJリーグの試合はないし、映画や美術館に行くのも少し躊躇してしまう状況なので仕事以外の楽しみはずいぶん減ってしまいました。あとついにティッシュペーパーが底をつきましたがコンビニには売っていませんでした。

この1ヶ月足らずで、突然わたしたちは「人と会ったり遠くへ行ったりすることがぜいたくな世界」を経験することになりました。こういう状態があとどれくらい続くのかわかりません。長引けば経済的なダメージが大きいものの、中国ではその影響で大気汚染が改善したという報告があったり、国内企業がリモートワークを推奨したりと、今の状況はある意味、未来における環境保護だとか働き方、コミュニケーションのあり方を考えるきっかけにもなっている気がします。オンライン会議サービスやスマートフォンの普及のように移動しなくても済むための環境が整ってきたことに加え、エネルギーや環境保護の問題を考えると人はなるべく動かない方がいいことがわかっているので、ウイルスの感染拡大に関わらず、ゆるやかに「人と会ったり遠くへ行ったりすることがぜいたくな世界」に向かっていく可能性があります。今の状態はその予行演習といえなくもありません。

わたしたちが住むところとは別の世界の話をします。その世界では汚染物質の蔓延で30分以上の外出をすることが禁止されています。外に出ないといけない仕事は人間によく似たロボットが代わりにやってくれますが、ロボットを稼働させるにはお金がかかります。この世界でどんな仕事をロボットがやっているか考えてみたいと思います。

まず小売の仕事をしているロボットはひとりもいないでしょう(人間にとてもよく似ているのであえてひとりと書きます)。30分しか外出できないので、わざわざ出かけてまでものを買うことがないからです。宅配などものを運ぶ仕事をしているロボットは大勢います。そういったロボットが毎日、ティッシュペーパーからこだわりのパンケーキまで必要なものを家まで届けてくれます。電気やガス、水道、インターネットなどのインフラを整える仕事もロボットがやっています。それから農業や漁業などの一次産業に従事しているロボットがいて、大きな設備が必要な工場や研究施設で働くロボットもいます。交番にいる警察官や消防士もロボットがやっています。

娯楽のほとんどは家にあるテレビやPC、スマートフォン、VR機器をとおして提供されるようになります。演奏や演劇をライブで観ることはできないので、YouTubeのようなサービスから配信される個人の動画を観ることになります。ロボットが外で収録した映像もありますが、CGやVRの技術が発達しているので、室内で撮影された映像も劇場で演じているのを観るのとそれほど変わらなくなりました。スポーツは人間は外に出られないので、ロボットが競技を行うのを家で観戦するか、人間がやるEスポーツを観ることになります。散髪はロボットに切ってもらうか、美容師が紹介する流行のスタイリングの動画を見ながら自分で髪を切ります。ほとんどのサービスがオンラインで提供されていて、病院も通常はオンラインで診断を受けて、処方された薬をロボットに配達してもらいます。歯の治療や手術などはさすがにオンラインではできないので、申請すれば特別に30分以上の外出が認められます。すべての申請がオンラインでできるようになっているので、役所というものはありません。病院にはロボットの医者がいます。支払いはカードのみ。紙のお金がないので、銀行もありません。

基本的にお父さんもお母さんも家にいるので、幼稚園や保育園はありません。学校の授業もオンラインで受けることができます。教員は部活動の顧問など授業以外のことはしなくてもよいので在宅で仕事をすることができます。体を動かす機会があまりないので、多くの人は30分の貴重な外出時間を利用してジョギングをしたり、自転車に乗ったりして過ごします。

まとめると、この世界でロボットがやっているのはこのような仕事です。

・自然から富を得る仕事
・工事や建設を行う仕事
・電気やガスなどのインフラを供給する仕事
・人の警護や救助をする仕事
・特別な設備や施設が必要な仕事
・物を運ぶ仕事
・医療やマッサージ、散髪など物理的に人の体に作用する仕事
・競技や演技を見せる仕事

リモートワークができない仕事ってどういうものだろうと考えるために、あえて極端な状況を想像してみました。それ以外の仕事は、工夫すればリモートワークの方法が何かしらあるのではないでしょうか。さらにいえば、こういった仕事を本当にロボットがやってくれるようになれば、人は一歩も外に出なくてもよいことになります。ここに書いたことは、決してウイルスの感染拡大のような危機感をあおりたいわけではありません。コロナウイルスについては予断を許さない状況が続いています。現場で対応されている医療従事者のみなさんには頭が下がります。1日でも早く感染が落ち着いて、サッカーが観戦できる日を楽しみにしています。