いわた書店一万円選書 読書感想文②『神さまたちの遊ぶ庭』
いわた書店の一万円選書からの2冊目。本日は、『神さまたちの遊ぶ庭 / 宮下奈都著』の感想文です。
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このエッセイを読んで、著者の宮下奈都さんの大ファンになりました。彼女の他の作品もこれを機会に読んでみたいと思えるほど、この一冊の魅力的な世界にどっぷりと浸ってしまいました。
福井から帯広へ2年間の期間限定移住のはずが?
物語は、北海道、十勝の山奥にある小さな集落「トムラウシ」が舞台です。
以前から北海道での暮らしに憧れを抱いていた宮下さんの旦那さんが、当初予定していた福井から帯広への移住計画を急遽覆して、トムラウシ行きを猛烈にプッシュするところから始まります。
戸惑いを隠せない宮下さんは、旦那さんを説得することや、直接対決(笑)を避け、「大丈夫、きっと子供たちが反対するだろうから」と目論み、旦那さんと、長男&次男くんたちの男チームで下見に行ってもらうことにします。
ところが、意に反して、息子くんたちは、一面雪の小学校の校庭で歓迎の舞を舞う立派なエゾシカの姿を目にして、ハートを鷲掴みにされてしまいます。ここで、宮下さんの目論みは、あっさりと消え失せてしまいました。
そうと決まれば。ということで、宮下さんも、ご自身の中に「行ってみたい」と思う気持ちが少なからずあることも自覚し、1年間という期間限定のトムラウシでの「山村留学」移住を決意することに。
気づけばズブズブにハマってしまう…トムラウシでの山村留学
こうして移り住んできた宮下さん一家を、それぞれの地から移住し、延長しながら住み続けているトムラウシの皆さんは「みんなここが気に入っちゃうんだよね」と、温かく迎え入れます。
季節は春でも、まだまだ凍てつくような寒さが残る、雪の世界のトムラウシ。そこから夏に近づくにつれ、雪解けとともに緑豊かな別世界に移り変わっていきます。
動物たちの息遣いを感じながら、ここでの暮らしに溶け込んでいく宮下さん一家。
本を読み進めるうちに、その美しい描写に「どんなところなんだろう」と、何度もネット検索したくなる衝動を抑えながら、頭の中でイメージを膨らませて、私も気づけばどっぷりと、ここの世界、暮らしに、ハマっていきました。
個性的な宮下さんキッズをご紹介
なんと言っても、宮下さんの軽妙な語り口が本当に面白くて。
読みすすめながら、何度も吹き出してしまうほどでした。
特に、宮下さんを通して描かれる3人のお子さんが、とにかく個性的で可愛いのです。
やがて訪れる「戻るか延長か」の決断の時
アイヌ語でカムイミンタラ「神々の遊ぶ庭」という意味を持つ、素晴らしい景色に囲まれた地である、トムラウシ。
「こんな世界が日本に存在してるんだなぁ。」と。寒い地であるにも関わらず、胸の内は、終始ポカポカ温かい気持ちでいっぱいになりました。
宮下さんは、気づけば、「ここ以外で生きていけるかな」と思うほどに。
と、同時に読み進めている自分も、不思議と同じような感覚になります。
しかし、やがて結論を出さなければいけない時がやって来ます。
当初の予定だった1年のリミットが迫ってきたのです。
すっかり宮下さん一家に同化してしまっていた私は、勝手ながら。
ずっとここにいてほしい(いたい)。
この世界から、元の場所に戻ってほしくない(戻りたくない)。
そんな気持ちになりました。
果たして、宮下さん一家はどんな結論を出したのか?
ぜひ、この本で、確かめてみてください。
そして、美しいトムラウシの世界に足を踏み入れ、堪能してみてほしいと思います。