「今後の課題とさせていただきます」は言ってOK? :修論構想発表会におけるFAQの傾向と対策(3)
研究発表の質疑で答えに窮したときについ言ってしまいそうになる、「今後の課題とさせていただきます」。これを発しても良いかどうかで言えば、無言よりはまし、といった感じです。
もう少し掘り下げていきます。この文言は、大げさに言うと研究者人生で一度だけ言うことが許される、最後の切り札のようなものだと思ってください。安易に言ってはいけません。特に、質問にあまり向き合わず、すぐにこの文言を言ってしまうのは対話を避けるように見えますし、難しい質問であっても真摯に答えるように努めるのがまずは必要です。
もちろん難しい質問、答えられない質問もあるでしょう。最後まできちんとした答えができないとしても、現時点であなたの言える最大限の回答を述べれば良いのです。その上で、「今お答えできるのはここまでで、ここから先は今後の課題」というように限定された形で言うのなら、研究の対話として成り立っているので、質問者も納得してくれると思います。相手が教員ならば、あなたに対して建設的なアドバイスもあるでしょう。
ちなみに、この質問を「研究者人生で一度だけ言うことが許される」場とは、どういう場があるでしょうか。私は博士論文の口頭試問だと思います。博論とは突き詰めて言えば、それぞれの分野で未踏であった領域に新たな研究成果を打ち立てる、独創性のかたまりです。つまり、審査員がいかに偉い先生であっても、その主題に関しては発表者以上に詳しい人は存在しないのです。そのような発表者であっても答えることができない質問は、言わば、まだ誰も答えることのできない質問であり、英知の最先端です。
博論審査の場で、これまで明快に答えていた発表者が一瞬たじろぐような質問が来ることがあります。その発表者が十分な見識を持った真摯な研究者であれば、彼/彼女がたじろぐほどの質問は、いわば、鉄壁の守りの間隙を突いた一矢です。そこで絞り出された「今後の課題とさせていただきます」という答えは、決して逃げではなく、一つの到達点に来たばかりの発表者が更なる高みを目指す決意表明だと解釈して良いでしょう。
仮に修論審査で「今後の課題」と言うならば博士論文で取り組めば良いのですが、最後の学位論文である博論には、そのような意味での「今後」はありません。博論審査の「今後の課題」とは、研究者人生を賭けて取り組む課題なのです。
博論執筆者ですら容易に答えられない難しい問いを突きつけることができる審査委員がいるとすれば、やはり相当の見識や洞察力を有しています。そのような緊張感のあるオフェンス・ディフェンスは、研究者人生において何度もあるわけではありません。
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