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【2000字のドラマ】悩みごと
【川島裕子の悩み】
今日も会えたらなって願いながら通る渡り廊下が愛しい。
私には特殊能力でも備わっているのだろう。ペタペタなるサンダルもなぜだか、彼の音だけ聞き分ける。教室を開けるタイミングもバッチリ把握している自分が気持ち悪い。ある意味、ストーカーだとも言える。
私の片思いの相手は、同じ図書委員の鈴木さん。1つ上の3年だ。
彼の人柄が好きと言えたら素敵だけど、たいして知らない。もしかしたら、恋がしたい症候群?って笑われてしまいそうなぐらいだ。しょうもない。
私は、彼の声が好きだ。恋に恋してるって言われてもいい。
初めはなんて心地よい声の持ち主なんだろうって心が震えた。渡り廊下ですれ違ったとき、友だちと話ながら歩く彼の声はそれぐらい素敵。
それから。
委員会での報告書を読む声。意識してからは彼の足音や仕草がツボであることにいちいち反応をしてしまう。
でも。
私と彼との距離は、すれ違った時に会釈をする程度だ。時々ふと、彼が私を見えいるような気持ちになるが、きっと気のせいなのだと思う。
だけど。
これからも彼の声を聞いていたい。もうすぐ、委員会活動も終わってしまう。二学期も続けて同じ委員会をするなんて考えられないし、モタモタしている場合でもない。
何かきっかけがないかと思いを巡らせている最中だ。
【鈴木渡の悩み】
最近、とても気になる女子がいる。同じ委員会の川島だ。彼女は大人しい印象の子で、笑うときも自分の妹みたいにゲラゲラ笑わない。コロコロ鈴鳴るように笑う。口元を隠しながら笑う仕草も表情もドキリとするくらい可愛い。
ついつい、妹に彼女のようにしとやかに過ごせと小言を言ってしまう。
それに。
彼女とはよく、移動教室ですれ違うことが多い。すれ違うときに嗅いでしまうシャンプーの香りが堪らなく心をくすぐる。ついつい、どこのメーカーのものだろうかとドラッグストアで香りサンプルを嗅いでしまう始末だ。決してやましいことをしようとしているわけではない。妹に気持ち悪いとどんなに罵られようと、彼女を追いかけてしまう気持ちがとめられないだけだ。
しかし。
どんなに思いを寄せていても、彼女との接点はまるでない。そろそろ受験があるし、呑気に恋愛にうつつをぬかすことなんて出来ないとも思う。それでも、彼女のことが気になって仕方がないのだ。
本当に、どうしたらよいかと思い悩んでいる。
【鈴木ほのかの悩み】
ここ最近、イライラが止まらない。原因は、じれったいまでに恋愛音痴の二人に挟まれているからだ。
2人は私がお互いの共通点だということを知らない。
イライラの原因1人目は、川島裕子。彼女は同じ部活の先輩でどうやら私の兄のことが好きなのだろうと思う。彼女の委員会の話や恋の相手の行動が、私の兄を指し示しているからだ。
それに彼女とは、友人と言っていいほどよく2人で出掛けているし、いつもよくしゃべっている。
それなのに。
なのにどうして、兄と私が名字が同じことに疑問や期待を持たないのか不思議だ。
そうか。
鈴木か。名字が、鈴木だからか。よくある名字だとしてもそれでも、彼女はかけてみようと思わなかったのだろうか?謎である。
イライラの原因、2人目は私の兄の鈴木渡。兄はぶっきらぼうで、今まで女子の話なんてしたことがなかったのに、やたら彼女を担ぎ上げてくる。最近は、彼女のようになれと言ってくる始末だ。
この間は、マツキヨで女物のシャンプーのサンプルを嗅いでいて気持ち悪かった。たぶん、どこかで知った彼女のシャンプーをリサーチしているに違いない。ここまで来ると本当にアウトだと思う。
私はイジワルしているつもりはない。どちらかに相談されたのなら、すぐに答えてあげるし、橋渡し出来るハズだ。それなのに、どちらも声をかけて来ないのだ。
自分のことではないが、本当にモヤモヤしてイライラして仕方がない。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
しょうもない考えごとをしていると、足元がおろそかになる。なにもない渡り廊下でスッ転んでも誰が笑うだろう。
足元がぐらついたような、気がしてうっかり盛大にスッ転んだ。大きな音と声で周囲の視線を集めてしまった。
「いったーっっっ」
うっかり転んだ気恥ずかしさで、思いっきり声を出してしまう。
「「大丈夫?」」
見事なユニゾンの2人が駆け寄った。どうやら近くでちょうど2人が歩いていたらしい。
「「えっ?」」
転んで足を擦りむいた私を気遣った2人はすぐに私のことが見えなくなったようだ。私の説明はどうやら必要ないらしい。
それにしても、こんなまどろっこしいはた迷惑な結びつきなんてさせないで欲しいと思う。
「あーっもう。私2人のためにこかされたのーっ」って叫べたらどんなに楽になれただろう。神様がいたら不公平だと罵ってやる。
でも。
「なんか。胸のモヤモヤすっきりしたかも」
このときの私はできたてホヤホヤバカップルに、再び悩まされることになるなんて、思っていなかった。いつか、どこかで誰かに愚痴ってみようかと思う。本当に私の話を誰か聞いてくれ。
【完】
みんなのフォトギャラリーから素敵なイラストをお借りしました。ほのかの気持ちにピッタリ。ありがとうございます。
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