その言葉で、
津村紀久子さんの「君は永遠にそいつらより若い」を読んでから3ヶ月あまり。一日も頭から離れることはなく、読後の衝撃の余韻を今日も引きずっている。
「その言葉でじゅうぶんだと思う」
この台詞は小説にはなくて、刊行からおよそ20年ほど経って映像化された映画で書かれたもの。けれどこの小説を読む上で、これほどまでにこの作品が存在することで救われる心があることをを表せる言葉はないだろうなという光のような台詞。
この一言の前にあるのが、なんとも聞き慣れない「君は永遠にそいつらより若い」という独特の言い回し。この言葉を発する主人公の大学生ホリガイは、目の前にはいないが確実に傷ついている人を常に頭の片隅で想っている。大きな社会の中のたった1人である以上、他者の悲しみや傷は想ったところでどうしようもない。それでも、目の前にいる人そうではない人、それぞれを想っている。
退廃的な大学生活と社会と感情のキャップが垣間見えど、ホリガイなりの真摯さは人の心を打つわけで、そうして親しい存在となるイノギとの交流は、互いの琴線が響きあう繋がりなのだろう。そのイノギがホリガイに伝えるのが、「その言葉でじゅうぶんだと思う」だ。
一つの物語を、映像と文字の二つの角度から成立させる作品を初めて観て、映画を観たのも本を読んだのも数ヶ月前なのに何回も見返してはため息をついている。(吉野竜平監督が、「四月の永い夢」を共同脚本をされていると後から知って、なんだか腑に落ちるものがあった)
そして文庫本の松浦理英子さんの解説は、今まで読んできたどの文章よりも冷静で熱い美しさがあり心が震えた。この作品が持つ静かな熱をびりびりと感じたあの読後感は、この巻末によってこの先どんなに自分が変わっても寸分の狂いなく思い出せるだろうと思った。
人生において、忘れたくない物語と出会った。
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