【詩】人生は旅すること

じんせいはたびすること柄のシャツの上に　ジャケットを羽織ってネクタイを締めて　電車に揺られるにんげんは　脂ぎった光をしている　かがみを見るのは嫌いになったから　透明なにんげんを見て　空気のない宇宙空間の　空気を燃やしながら進む流星みたいな　光を　放つ言葉　を見ている　世界は美しい　自分のいる世界は美しい　美しくない自分でも　いる世界は美しい　から　安心して電車に乗っていい　らしい　連結部分のたびにしゃっくりする怪物　みたいな鉄の腹の中でも　住めば都　お貴族さまは　流星の威を借るキツネ顔
橋の上につくられた駅のホームから　菱形格子模様の柵越しに見る　悠久の時の流れような　蝸牛のおさんぽのような　冗長な比喩表現のような　川を　毀すように遮る通過電車みたいな速度の街　ぼんッという風に　纏綿とした感情や　血液から這い出てきた言葉を　のせて　放棄して　かるくなって　のこった上澄みの脳味噌と　さみしさにだけ鋭敏な皮膚で　どこへ行く　人生は旅すること　の光　を追い求めている
 
車窓風景が　高層ビルから水田にかわる　境界線には　スワロフスキーの案山子が立っている　川を越えると　異界に入る　暗くて何も見えなくなり　たまに柳の枝にあたってカラカラいう　トンネルを抜けると　そこは火星で　赤くて荒涼とした大地が広がっていた　がたんとはねる　現世の地上にしか　存在できない　連結部分　が無くても　しゃっくりは止まらない　異界の番犬の死骸でも　火星で破砕した岩でも　しゃっくりは起きる　がったん　がッたん　がったん、　電車はただの乗り物だ