【詩】ごめんね、地球
一日の中でこの時間だけ正面からきみの顔を見ないといけない。顔の半分はあかくなってもう半分の陰が濃くなって、普段内側に押し込めている、スーパーでいきなり叫んで撒き散らしてしまいたくなる感情がとろけ出ているようで、ただうつくしかった。
時間が溶ける夢に酔う前のような、
風に吹かれる金木犀に呑まれるような
心地がした。
きみは僕の方を見てるけど、僕の光と結び合わせることはしない目をしながら、夕焼のあかにのまれそう、って言った。そのあかはあかじゃない。
あかじゃないあかなんだよ、ってことばはイオンの壁をすべって夜に備え始めた住宅街の間をすりぬけていった。
きみは僕とつながっている異世界を見ている。足をグルグルさせるくらい早く走っても、手漕ぎボートに乗っても、その異世界にたどり着くことはできないけど、きみは動き始めることはなくてただ見ている。その異世界にはなにもない。
木漏れ日も潮騒もない。きみは異世界を見ている。きっときみは異世界を想像できていないだろう。頭の中には、白でも黒でもない微温いぬくもりがあるだけだろう。僕はきみを見ている。
たとえば、きみと僕だけの世界になったとしたら、きみは自殺するだろう。六階建ての雑居ビルの屋上から、くらいコンクリートに飛び込むんだろう。
異世界へ行く真似事。きみはどこかに行ってしまった。じつはどこにも行ってないのかもしれない。僕はきみのあかを抱きしめてねむる。バニラアイスが口の中で広がっていくように、安心する。
きみに失わせなくてよかった。