夕日が無ければ
夕日が無ければ
おにぎりを節約してまで筆を買って
絵を描きはじめる人はいなくなるだろう
夕日が無ければ
三十年築いてきた地位を捨ててまで
詩を書きはじめる人はいなくなるだろう
夕日が無ければ
大声で身体を揺らしながらの
祈りをささげられる神はいなかっただろう
夕日が無ければ
登戸-宿河原間の多摩川の土手で
温度も匂いもかげもかたちもなく流れた涙も
その涙をしっかり見つめて差し出す右手もないだろう
夕日が無ければ
登戸-宿河原間の多摩川の土手で
無軌道に無差別に湧き上がる熱狂も
その熱に浮かされて煙を吐きながら回転する脚も
クリアーに濁っている「なんで速ェんだよ」と笑う声もないだろう
夕日が無ければ
この廃墟が美しく照らされることが無くなる
この廃墟は美しいから残せと言う人も消えるはず
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詩です。
読んでいただきありがとうございます。