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詩集『閑文字』

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伽戸ミナがつくった詩を載せています。読んで頂けたらうれしいです。
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2024年10月の記事一覧

夕日が無ければ

夕日が無ければ
おにぎりを節約してまで筆を買って
絵を描きはじめる人はいなくなるだろう
夕日が無ければ
三十年築いてきた地位を捨ててまで
詩を書きはじめる人はいなくなるだろう
夕日が無ければ
大声で身体を揺らしながらの
祈りをささげられる神はいなかっただろう
夕日が無ければ
登戸-宿河原間の多摩川の土手で
温度も匂いもかげもかたちもなく流れた涙も
その涙をしっかり見つめて差し出す右手もないだろう

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割れるまでほんとに割れると思えない蛇口を咥える水風船が

男にも女にもキスだけで膨らむものがある
というか、この世のものはキスしないと膨らまない
キィッと捻ると、青いゴムの中へ水が注ぎこまれる
青さがうすまっていく
やわくたわませた光を周りにこぼす
お母さんたちはダンスホールみたいにキレイで素晴らしいね
と言っている
ほんとうのすがたはここにあるのかなぁ?
「うすくなっていく青があなたの本当の姿です
つべこべ言わずに信じなさい」
この言葉はきっと割れるま

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詩人だと名乗れなくても詩は書けるカシミヤのセーター箪笥の奥へ

『伊東家の食卓』でやっていたTシャツのたたみ方は
結局できるようにならなかったな
陽が傾いて部屋に侵入して
足首にまとわりつく、くすぐったいよ
時間は有限だ、
無駄にするな、
って鞭振るっていたとき
意味のあるものの中身をよく考えていなかったな
雲が夕陽に照らされて、溶岩みたいになっていたのを
写真に収めたら、関西弁の「つまらん」が聞こえてきて
ひとしきり笑ったあと、おきにいりに登録した
ほんとう

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木曜

ぼくが水曜と木曜をまたいだとき
ふと、水曜と木曜は出会うことがないんだなとおもった
そんなことを木曜に聞いてみたら
水芙蓉と木芙蓉に面識はないみたいなことだよ、と
答えてくれた
きみは好き放題切り刻まれたままでもいいのか
と、やや力を込めて言ってしまった
するとカレは鷹揚に笑ってから
霧が出てきたね、と言った

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詩です。
読んでいただきありがとうございます。

いなかった

ママもねぇねもパチンといい音を立ててボタンを留めているのに
ぼくはなんどやっても、足がグネったときと同じ音がするだけで
きれいに留めることはできなかった
2024年10月12日の夕陽は
水平線に対して斜めに沈んでいきました
テレビでもSNSでも、これは吉兆だと笑って済ませていて
むかし、月が分裂したときに、
これは増長をやめない人間への世界からの復讐のはじまりだ、と
騒いでいたことが思い出されて

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ジャングルジム

ジャングルジム
よくいく公園でいちばん好きなのはジャングルジム
そのジャングルジムが撤去された
理由は太腿をあつめて組んだものだったから
大問題になったみたいで、おかあさんもきもちわるいって
なんどもなんども声に出していた
みんなからもらった「つらかったね」が雀の死骸のようで
それが手の中で積み上がっているさまは
ぼくだけのジャングルジムみたいだった

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詩で

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