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詩集『閑文字』

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伽戸ミナがつくった詩を載せています。読んで頂けたらうれしいです。
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2024年5月の記事一覧

独歩

一年を通じて
風はさまざまなものを運びますが
なにも乗せていない風というのもいいものですね
ただの風はわたしの熱を引き取ってくれます
夏が来たらしい
なにもかも燃やし尽くしてかがやく夏が
夏はきっと燃やして灰になった桜を覚えているでしょう
焦げ付いたように忘れることはできないのだろう
あぁ天の香具山はあんなに遠くになってしまいました
本当に歩いてきたのですね
純白の衣を干す働き者な指先まで
夏の光

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路地裏

大通りより路地裏の方が多い
女性がブーツから生脚を出している
ゴミを荒らしたカラスが翼を広げている
覆面たちが背中を叩き合っている
コスプレイヤーが撮影している
桃太郎が酔い潰れている
マネキンの頭が水たまりに落ちている
クロワッサンと三日月を見比べて居る人がいる
壁にもたれてメイド服が喫煙している
室外機はエアコンの数だけある
家族でドラム缶風呂に入っている
乳首の透けたばあさんが靴磨きをしてい

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栞紐

本から垂れている糸は空中に消えている
その糸はきっと見えなくなっているだけで
地球のどこかで美しい絨毯に編まれているはず
そうでなければこの涙が説明できなくなってしまう

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止まれ

すこし失敗したスタンプみたいに
消えかけの“止まれ”と
生まれたての“止まれ”が重なっている
消えかけの方は、どうせもう長くはいられないのだから最後くらい許してくれと喚いていて
生まれたての方は、これからやっていかなければならないことの邪魔をするのは勘弁してくれと叫んでいる
どっちも“止まれ”なのにである

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読んでいただきありがとうございます。
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正当性

太陽が死んでいくのを見せられても
闇の覆いが不気味に迫り来ていても
じっと耐え寝ずに見張りをしている
あなたはすばらしい
暢気な方々とは違い
あなたの袖は涙を流さずとも濡れている
何枚も重ねずとも
あなたの服は暗く重たくなっている
子どもたちにも背負わせてしまっている
それはあなたのせいではありません
闇のように何もかも塗り潰してしまうもののせいです
もう一度言います
あなたのせいではありません

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三日続いた雨がようやく上がった

詩です。

ベランダにくまのプーさんが干してある
Tシャツ、Yシャツ、エプロン、くつ下
というような並んでいるものはなく
事件性を感じさせる孤独感である
日常的にあらわれる洗濯物はペラペラの布で
胴体が入っていない状態だということがよく分かる
くまのプーさんが干してある部屋は
昨年ご主人を亡くされた大家さんの部屋です
あなたの夢を応援しているよ
と言ってよくアップルパイをくれます
部屋にあかりを灯

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