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詩集『閑文字』

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伽戸ミナがつくった詩を載せています。読んで頂けたらうれしいです。
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2023年5月の記事一覧

【詩】森の家

風が頬を撫でるとき、僕は地球を撫でていることになるのだろうか?
草花に触れることのなくなった僕のことも、地球は変わらず
撫でてくれます。風に吹かれるススキの葉を見ていると、
あなたを思い出します。買うべき本と同じ光を、「あ」という感覚で捉えて
カメラを構える。光は便利だ。光は、お金みたいに変換できて、とても便利だ。
みんなみーんな、光を求めて、夜は嫌われ者になった。
ピカチュウは人気者になった。

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【詩】茶化す

春はその年の仕事を終えたと思い、夏は低気圧の頭痛に悩まされている時期
季節の目を盗んで開けた窓から吹きこむ風は、
エアコンの風みたいに剥き出しではなかった
カドが剥き出しになった音程で
月のように頭の回転が止まって、喉が詰まって言葉が絡まって
心臓が地下室のように凍る
という経験を嫌という程してきたのに
自分からその音程が出ることがある
だから声帯を捨てることがやさしさだと思っていた
しかし、茶化

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【詩】違和感を演じられる真面目な人

ベロは表面にある内臓。
内臓は生体活動に特化しているから、
人に見せられる見た目をしていない
だから、ベロを出していると違和感がある
  気温三十度を超えた五月の舗装路の上
  突然変異種のヨガのポーズ
 オレの才能ってこんな形なんだぜ
星空を纏ったドレスは
飽きられてしまって、
孵化厳選で明かした夜の
チューブトップに着替える
原石のままのネックレスをする。
まだ、窓を開けられる時期だから
風を

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【詩】月の岬からDIVEする

時間にDIVEしている
魚めがけて海中にとび込む鳥みたいに
DIVEしている
時間にDIVEしつづけている
魚めがけて海中にとび込む鳥みたいに
DIVEしつづけている
かみさまは
気軽に時間にとび込む人間たちに
魚めがけて海中にとび込む鳥みたいな、
欲望に忠実な滑稽さを感じている
ビルの上から、サイダーにDIVEするのは躊躇する
立ちのぼる泡々が発する音は、
悪魔の寝息のように
ぬめぬめしていて、

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【詩】かめら

カメラといえばスマホの世代は、想い出がセピア色じゃない
いつからか写真を撮っても、
映像が手の中に残るようになった
チョコレートを口に入れて
ちょこれいと、としかいえない味になるように
混乱する
墨をはかれたように一気にひろがる夜に、
地面から洪水のように雨が降っているゆめで、
感じた恐怖が、
目が覚めても身体に残っていて、この感情が
現実なのかわからない
雨の度に、宇宙は溶けているのかもしれない

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風と石

世界中をふきあるく風が
わたしの顔と出くわすのは奇跡だろうか?
エアコンの統制下にある部屋の
窓を開けられるわずかな時期
春は役目が終わったと思い、夏が
まだ動きださなくていいと思っている隙間の時間
目を盗んで深夜の高速を走る
わたしが助手席に座って、
言葉を空気に乗せて、運ばれるのを待つ、
かすかな会話
 
硬くて軽くて当たると痛い
音程の言葉で、
思考が動かなくなったり、喉が詰まって
言葉が絡

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ヴァレンタイン

冬を、逆手で握って、ふりあげて、
自分の太腿に突き立てるとあらわになる
春の温度
青空にも、驟雨にも、嘘をつかれているようで、
でも、もともと地球は宇宙しか見ていないというような
温度
温度だから実体なんかなくって、
体感した事実だけが、私の手の中にある
自分の骨を、有害な男らしさで打ちつけて、
舞う粉塵を吸い込んで、くしゃみが出る
思ったより危険度が高くて、
もうひとつ出る
胃から這い上がる溶け

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