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閑文字

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詩をまとめています。楽しんでいただけたらうれしいです。
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2022年9月の記事一覧

【詩】すとれす

ゆとり教育が削り取られたとき、にいちゃんたちの過去も削り取られている気がして、
アイスピックの先端のにぶいひかりがこわくなった。こおりから上がる悲鳴が水滴にかわるのが、過去のきえるはやさみたいだった。
アイスピックはいつも頭上で煌々としてて、ぼくのワイシャツを、一繊維ずつ剥がしていく。
偶に直接削られた人から、乾燥からみをまもっていた玉虫色の鱗がはじけ飛ぶ。糸くずとか穴を開けたあとに捨てられる丸い

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【詩】かめら

カメラといえばスマホの世代は、想い出がセ
ピア色じゃない。脂の詰まった毛穴がみえる
くらい鮮明。おおきさは関係なく画面に現実
がうつるようになったから現実をいき現実の
したで現実をもっている。おふとんにくるま
っても、みるのは現実。ゆめと現実ではなく、
現実と現実の間を毎晩漂っている。
 
子どものころ加工処理したゆめをみせられて
いた大人が、自分の子どもには加工処理しな
いゆめをみせるようになっ

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【詩】りぷ

とうめいであかとあおのキラキラが入ったス
ーパーボールがすきだった。ろうかのほんだ
なのびんの中にあった。たぶんおねえちゃん
の。かしても言わないであそんでた。子バッ
タみたいなのを、なんどもうけとめてあげて
たら、ともだちになってた。
文字がはねまわらなくなった。弾むことをや
めたスーパーボールが文字になった。あのあ
きちには家が建った。
わたしの頭の中が、バンドドボゴッボとうる
さいのはどうし

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【詩】はさみ

月光に月より月をかんじてしまうのは、にん
げんは光しかみえないから。月が、月が、と
言うときに必要なのは光だけで、かわいたほ
しじゃない。そらとそらの、間にあるぎん色
の埃が、月と地球のあいだにある連結に、ゆ
っくりと力を加えて分かつ。緩やかなだんれ
つは、心地よくてさみしい。
 
ぎん色のかがやきはほねをかくしている。錆
びはそのかがやきをかくしている。大粒の雨
でなにもかも錆びた街。鉄は一千度

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【詩】ほん

どくがあるレタスを食べたうさぎがしんで、
そのうさぎを食べたオオカミがしんだ。しん
だオオカミの肉を分解して、オレンジ色の花
が咲いた。その花の蜜をあつめる虫たちの巣
を、茶色いクマが食べた。そのクマは蜜のど
くで正気を失って、にんげんを襲った。しん
で火葬されたにんげんの、はいとほねの中に
埋まっているのが本だ。
きみは本をもってるんだ。かわいそうだね。
ぼくも本をもってるんだ。わらっておくれ。

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【詩】哀歌

もしも春に
ヒグラシが鳴けば
 
もしも夏に
死があれば
 
もしも秋に
ネオングリーンを挿せば
 
もしも冬に
トレンチコートがひらめけば
 
もしも
わたしに心があったら

【詩】かがみ

“憧れる”を二つ重ねると、こころの定まら
ぬさまという意味になる。
憧憧と言うらしい。
強いあこがれはじぶんを見失わせる。
“耿る”を二つ重ねると、こころが安らかで
はないさまとなる。
耿耿と言うらしい。
ひかりが増すと、身の内にさす影も濃くなる。
では、鏡を二つ重ねるとどうなるのだろうか。
鏡鏡とでも言おうか。
うつらないものがうつるのだろうか。
鳥の巣みたいなねぐせの他になにがうつるの
だろう

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【詩】絶唱

とどけ
のらだぬきへ
とどけ
ごきぶりへ
とどけ
こっぷへ
とどけ
おとしだまへ
とどけ
じょうおうばちまで
とどけ
おりのなかへ
とどけ
こどもをみつめるかっぱへ
とどけ
おちたわたりどりへ
とどけ
おつきさまへ
とどけ
おっきなそとがわへ
とどけ
おどるしんぶんしまで
とどけ
そらをそめるひぐらしまで
とどけてなるものか
人間らに

憧憧耿耿

驟雨のバックバンドと松任谷由実
頭痛と眠気を吹き散らしてほしい
蝙蝠傘に隠れて袖をしぼる
もう終わりな前髪でこれを言おう
吐き出される息にもする警戒の
心臓の疼痛すら恋と呼ぶの
 
遠くから見れば月が綺麗ですね
よもすがらダイヤモンドダストを撒く
舌の上のチョコとバニラのジェラート
みたいに星がとろけてランド・アート
きらめきと星が降る夜に薫る波
漕ぎ出でて甘い泡で眠るが愛
 
濡れけぶる市街並木

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【詩】一歩踏み出すときに

一歩踏み出すときに、身から落ちるタオルケ
ットは、八月に舞う枯れ葉みたいだ
記録的猛暑で燃えつきた、という事実を晒さ
れていた
皮膚の上のもう一層になって、守っていたけ
ど、君が動けば簡単に剥がれる
表と裏を交互にみせて、描いたスクリュー、
孔を開けられたかな 
君の息吹は取り戻せたかな
色白の腕の、産毛の光が、こたえてくれる
死に葉はしずかに、狂喜乱舞
ベッドから垂れた、タオルケットは、もう動

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【詩】はたらく

一七八円のプリン・ア・ラ・モードを求めて
はらが震えるとき、からだの中はこんなに空
っぽなのかと不安になっている自分、を遠く
から眺めている。からだを通っている消化器
官は空洞なんだから、と説明してやって不安
を取り除く。肉体を動かしていた血液を、す
こしだけ思考に分けてやって、からだの思う
ままに動かないよう制する。十九円のモヤシ
をひとつ。
自分への期待を手放せないから、スマートフ
ォンを握っ

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