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詩集『閑文字』

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伽戸ミナがつくった詩を載せています。読んで頂けたらうれしいです。
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2022年8月の記事一覧

【詩】”1”を語る

“1”は 
絶対的なきまりとしての「1」と 
割合を示すときに基準となる「1」が
あることを しっていたら 
数字という言語を話せるようになっていたと
思う 
つまり“1”の中には 2つのユニバースが
ある 
そしたらユニじゃないけどね 
歯車を真似した偽の回転が 原子にはある
閃く白光でできた霧を がばっと集めて 
高校まで使える定規にする
数式をつかえたら便利だね
歯車が動かす機関車に乗って 

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【詩】トーキョーは、あぶくみたいな

多摩川はトーキョーとカワサキの狭間を流れ
ている 見渡せばどうみても続いている景色
なのに 向こう側はトーキョー 夕方五時の
チャイムが混じり合って いつも聞いていた
遊びの終わりを 告げる音色も分からなかっ
た 飲んでみたドクターペッパーを零してし
まった 新鮮さを失った血の色の 粟立った
液体が地面に広がる
大きな意味を持てないトーキョーという言葉
暴力的な明かりに成れなかったのに 神経へ

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【詩】黒曜石

【詩】黒曜石

新発見。ことばとは黒曜石の石刃。
圧倒的な熱から剥がされ落ちたブラックが何
かを隠して、白光の照り返しでミニチュアの
山脈が浮かび上がる肌。刃と宝剣と包丁を象
徴している力を、水平線のように光らせてい
る。
おうち焼肉をするから、血液が肉体の熱源だ
ってことを忘れてしまう、と皮膚を這う血に
教えられる。
ぼくの心臓の脇には黒曜石が入ったまま。刺
さるというより肉を押し分けながら入ってき
た。
痛み

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【詩】星母子

【詩】星母子

母は一人で私を育ててくれた、
その感謝はあるのです。
しかしそれゆえの孤独もあったのです。
「感謝しかない」と生きるべきなのかもしれ
ませんが
そうしてしまうと幼い自分を見捨ててしまう
ようで
まだできそうにありません。
 
自然の中から手繰り出した彫刻刀によって
惑星の表面には大規模共同住宅だけが残る。
黄ばんだ橙色のライトがつくりだす
規則的な星空の下に二人だけがいる。
他人とも、寄り添いあっ

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【詩】血と飴玉と男と女

【詩】血と飴玉と男と女

血液が沸騰して外へ向かおうとする機構が作
動すると、人間は男になる。
チュッパチャプスみたいなことばで顔が溶け
ると、人間は女になる。
「蓋を開けて」と頼まれると、人間は男にな
る。
flying tigerに入るとき、人間は男になる。
flying tigerのペンケースを見ているとき、人間は
女になる。
誰かの手が置かれた肩がチリチリと発火しは
じめて、ビリビリと痺れに変わっていくと、
人間は

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【詩】ひまわり先生

【詩】ひまわり先生

多様性とは、風が吹いてひまわりが揺れてい
ることだ。
枯れ葉を巻き上げているだけでたのしんでい
る、おもちゃの竜巻から生まれていった風が
誰かの庭先に植わったひまわりとたまたま出
くわして、お見合いをしながらすれ違った、
ということ。
台風みたいに森を波立たせることでも、満員
電車みたいに全部消してしまうことでもない。
「多様性とは、風が吹いてひまわりが揺れて
いることだ」
この言葉が風になって、

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型抜きの痕

型抜きの痕

半袖から伸びた、日焼けした腕の先、きみは
ミディアムレアの指で、手折った桜を差し出
す。代わりに渡した五百円玉が歪みそうなく
らい熱を持った夏の日。
好きも契約関係なんだからさ。
ビニール傘のみたいな中手骨を感じる。簡単
に折れてしまいそうになるのに、恋人つなぎ
なんて名前をつけたのは誰なんだろう。きっ
とぼくらみたいな、桜が咲くときの爆発で一
部分が欠けた人たちだったんだろう。
暗い部屋で、白い

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