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閑文字

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詩をまとめています。楽しんでいただけたらうれしいです。
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2022年5月の記事一覧

【詩】愛の証明

酒を呑む事は証明がいらない。
酒を呑まない事には証明がいる。
男が女を好きになる事は証明がいらない。
男が女を好きにならない事には証明がいる。
ふくらはぎを見た時の欲望は証明がいらない。
ふくらはぎを見た時の欲望がない事には証明がいる。
 
「ない事の証明は悪魔の証明っていうんだよ」って言ってる奴が悪魔だと思う。
そいつの頭の中の悪魔像は、全身黒くて蝙蝠の羽が生えてて尻尾が矢印になっててでっかいフ

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【詩】ストレスフリー

ストレスフリー、アルコールフリー、フリーランス、フリーマーケット、フリー素材
もう手に入れているものは、頭の良いフリをして手放す。
馬鹿なフリして責任から逃れるのが賢い生き方。
 
円滑に動く歯車どもへ。
噛み合えている幸せに気付けよ。
ぎぃぎぃ歯車は喰い込んできて痛ェぞ。

【詩】十代最後の大噴火

ラブソングも、ファイトソングも、ロックも、ポップスも、愛してるも、頑張れも、ありがとも、さよならも、大丈夫も、話を聞くよも、過去から学べも、今を生きろも、将来の為も、過ぎたことを悔やむなも、君たちには未来があるも、意図のある音全てが黒板みたいに心を引っ搔いてくるから、全部噴き飛ばす。躰の内で対流していたマグマが一気に膨らんで、爆発音で空間を裂いて、熱を一方的に叩きつける。濛濛と黒煙が立ち上ってカー

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【詩】俯いて歩く

ぴょんと点字ブロックをとびこえた幼子が、僕をイヤフォンが震わせて創った重低音の世界から連れ出した。腕を大きく振って、七分丈のジーンズの膝をしっかりと曲げて、全身でとび出していく。ピンクの半袖からあふれる二の腕が、むっちりと光を反射している。点字ブロックの向こう側の世界に着地すると、お母さんのヒールが太めのサンダルに向かって走り出す。
紺のプリーツスカートから伸びる日焼けした太腿とすれ違う。小麦色み

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【詩】お花の結婚式

広げる青空。
薫風そよぐ野原。
万緑叢中紅一点の花に祝福が訪れる。
ジューンブライドフラワー。
六月の花嫁花。
ミツバチが仲人。
蜜を求めて動き回ると、雄蕊と雌蕊の仲を取り持つことになる。
そこには契約なんて精密機器はなくて、重複している光しかない。
恩とか何とか彼んとかでの過干渉はない。
お花の結婚式は二人だけ。

【詩】半分

「もう今年も半分だよ。やばいね」の季節になる。
「年々時間が早く過ぎていくわ」を収穫してご飯に炊き込んで食べる。年が明ければ「今年こそは」を打ち上げて、桜の開花で「日本人といえば」と戯れて、年末には「よく頑張った」で一献傾ける。
気温の変化で衣替えするみたいに脳味噌を詰め替える。
 
僕のドーナツを半分貴方にあげる。モチモチしてたりクリームが入ってるようなやつじゃなくて、真ん中に穴の空いてるしっと

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【詩】ハイッ!地~図

私は言葉を騙る。
口から放つ音としての言葉は、心臓を十分の一くらいしか切り出せなくて、さらにその十分の一くらいしか君に消化吸収されていない。地図くらいにしかなれない言葉は八十九パーセントの不純物でできている。
私は言葉を語る。
黒インクの染みで作る文字としての言葉は、口から放つ音よりも私の声だ。空気の振動より紙を滲ませる方が喋っている気がする。でも、文字としての声はどれだけ投げても応答がなくて、講

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【詩】桃

おとなりさんから桃をもらった。
血色のいい桃肌をほおばると、じゅわっと果汁100パーセント。
川に洗濯に行ったお婆さんはもっと固い桃を喰べたんだろう。
赤ちゃんが入っている桃はきっと軽くて丈夫に違いない。
僕は鬼退治のない時代を生きている。

【詩】印象する地球

眼鏡を外すと重力が強くなって、かがやきが蛸煎餅みたいに潰される。光の縁が曖昧になってから、光に縁がなかったことを思い出す。僕らはフチを作るのが好きなのかもね。地球も国もスマホのカメラも。フチを作る必要が無かっただけなのに、フチがないから空は特別。私たちは同じ空の下にいるね。そう言うことはあっても、同じ地球に立っているとは言わない。フチの中と外は別のお話。
 
昼間の空の青の粒粒が潰されて、青と黒の

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詩『金色週間』

年に一度太陽が金色の折り紙をばらまく一週間。ビュウッッと吹き飛ばされて、ごおぉっと巻き上げられて、金が広がる。折り紙の連獅子が世界を金色に貼り直す。私の鼻にもぱりぱりとくっついて、紙だから皮膚にはなれないんだけど、剝がす前に次のが来ちゃうから、結局皮膚みたいになって、私も金色になる。折り紙の舞が金色の世界を奉げる。街路樹が風に揺れるたびに、木漏れ日が金色に射し込む。まぶしいなぁって思ったけど、自分

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