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閑文字

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詩をまとめています。楽しんでいただけたらうれしいです。
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2022年3月の記事一覧

詩『焼き豆腐のない街のすきやき鍋』

レンガに支配された街では
こってりした汁をたっぷり吸った焼き豆腐を食べられない
箸で摘めるくらいにはかたいけど、
テレビを見てると割れちゃうくらいにやわらかい
かたいのか、やわらかいのか、
よくわからないものは要らなくて、レンガが必要とされる
レンガをきっちり並べて、モルタルでびっちり隙間を埋めて、
出来上がった壁があればいい
焼き豆腐はいらない

詩『春むしむしが蠢く』

桜前線が連れてきた空気が、人を虫に変える
いくらコンクリートで
固めても、雑草は
生えてきて
街は、菜の花畑になる
ステンカラーコートの
翅が、空気を打ちつけて
一斉に飛び上がる
桜は旅立ちの風で散るからきれいなんだよ

 

詩『しゃぼん玉』

しゃぼん玉が
ふわふわふわりと、あそんでる
しゃぼん玉が
ひゅッ、と吹く風に押し出されて
木の枝の先に当たって、こわれた
しゃぼん玉が
次から次へとあらわれて、水中にいるみたいになった

 僕が、口から息を吐いてみても
空気は丸くならなくて、違う世界なんだと思い知る
見てることしかできなくてごめんなさい
それでもこわれないことを願っています

 

詩『ペットボトルコーヒー』

タンブラーに夜の残滓を注ぐ
布団のあったかさに炒られて、汗臭くなったから、君はいないんだろう

 中学生でブラックを飲んでると、大人だね、って言われた、舌がこどもだから飲めない、って言ってた
慣れさせられただけなのにね
なるべく早く大人になりましょうの時代
こどもは、純粋で、残酷で、活発で、爛漫で、無知で、愚かです
寄り添うヒマがないので大人になってください

朝がと朝にが夜を飲み干す

 

詩『えがお売り』

春になると
えがお売りがやってきます
ぽかぽかの風にのって
ベージュのコートをなびかせながら
やってきます

 えがおの貴方が一番すてき
泣き顔よりえがおの方がいいでしょ?
悲しいよりしあわせの方がいいでしょ?
そうでしょ?
そうだよね?
ね?
ね?
ね?

 泣きたかった私も
えがおになりました

 

詩『化石人類』

運命の人とは硬くなった身体をとかしてくれる人のことです
ぼくは十六年かけて、君の身体から水分を抜いたから、渇ききった君は全速力で走るといい
水を求めるんだ、のどが渇いて裂けそうだろう
給水所を用意しておくよ
小ちゃい紙コップには、海水をいれておくね、飲んだ君は一生懸命吐き出そうとするんだよね
手遅れだよ、早くしないともっと裂けちゃうよ
君はもっと運命を求めるんだ、渇きを潤してくれる人がこの先にいる

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詩『茹で卵』

ゆでたまごみたいに
つるりとした肌が好き
顔の上に白妙のヒフをぴんと張って
光を全部反射する
むにょっとした弾力が抵抗しても
すぐに裂けて快を感じる
君のぼそぼその中身が見たい

 つるりとした安心安全が好き
引っかかりがどこにもなかったから
捨て犬みたいに撫でてもらえる
残っていた殻の破片を
とってもらえる
誰かを傷付けるといけないからね
ひよこに成り損なった
エネルギーが固まっている

 

詩『ここはダイバーシティ』

僕はこの町をしっているよ
明かりの一つ一つが町をつくっているのをしっているよ

 となりのとなりのお隣さんが
手の中の世界で叫んでいるのをしっているよ

 急坂を下りた向かいの彼が
クマさんを抱いて寝るのをしっているよ

 公園の近くのあの子が
朝の光で眠くなるのをしっているよ

 線路のこっち側の君が
とんかつの味を知らないのをしっているよ

 僕はこの町をしっているよ
この町は僕をしっているか

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