「制外録」
WEDNESDAY PRESS 072
知人に貸していた「制外録」という本が却ってきた。
これは昨年亡くなった師匠・佐藤隆介さんが平成4年1月1日に自己出版された作品集である。
「制外録 早い話が酒徒の独りごと」。
内容は日本各地の酒の肴を毎月紹介するのだが、そこには佐藤さんとその食べ物、また各地の人々との熱い交流が端正な文体で綴られている。
なかに織り込まれたコラム「甘口辛口」は酒縁、酒ごころ、以酒養真、そばがき、酒びたしなど、はっとする文章が登場する。
そして何より、この「制外録」は、佐藤さんの手書き原稿をそのまま印刷というスタイル。つまり原稿用紙に書かれた美しい文字すら作品のようであり、文字を綴るということはデザインだとも思うのである。
平たく言えば、酒と食い物に関する人生訓のようなもの。
久しぶりに読み返してみると、随所に昔、佐藤さんから諭されたことが書かれている。気がつけば、すっかり放念していたことばかり。
最後のページに書かれた言葉「どこもかしこも文明ばかりで、文化がなくなってしまう」とある。
じつは先日、フードテックの専門家にレクチャーを受けた時に、その人は「フードテックと言いますが、きちんと食文化と結びついていないと意味はありません」と話された。その言葉が、なぜか蘇ってきた。