「バーテンダー」
WEDNESDAY PRESS 028
京都に「K6」というバアがある。
マスターバーテンダーは西田稔さん。
「K6」が開店して27年が経過するという。
「バーテンダーとソムリエの違いはなんですか?」と尋ねた。
返ってきたのは「バーテンダーもソムリエもお酒をサービスするというのは同じです。他人が作ったものをサービスする。唯一違うのは、バーテンダーに少しモノを作るという部分があるとすればカクテルを作るということです」と。
確かにバーテンダーはカクテルを作る。スタンダードもあればオリジナルもある。スタンダードカクテルとは、マティーニやジントニック、ギムレット、サイドカーなどであり、それらはほほ20世紀初頭に生まれたという。毎年数種のオリジナルカクテルが作られるが、カクテルブックに掲載されるものはない。モヒートだけがその世界に入ることが許されたカクテル。
このスタンダードカクテルは、バーテンダーによって味が違う。同じレシピでも違う。その話を耳にして、歌舞伎や古典落語と同じだと思った。同じ演題でも演者によって印象は異なる。それが個性である。新作が生まれることもあるが、カクテルブックに載るような作品は貴重と言える。
バーテンダーはいつしか自ら作り上げたカクテルがカクテルブックに載ることを夢見てシェーカーを振りつづけるのだ。
西田さんは「さあ、今日も新しい物語が始まると思って、店を開けます」と話し「最後は西田の注ぐストレートはおいしい、と言ってもらえるバーテンダーになりたいです」と加えた。
それはまさに西田さんの人生を味わうことになる。
物語を紡ぎ仕事なのだと 改めてバーテンダーのことを深く考えた。