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【対談】『極楽に至る忌門』刊行記念 芦花公園さん×逆木ルミヲさんスペシャル対談

 人気ホラー作家の芦花公園さんの最新作『極楽に至る忌門』(角川ホラー文庫)は、閉鎖的な村を舞台に、禍々しい怪異と因縁を描いたホラー小説。その刊行にあわせて、『ツンデレ悪役令嬢リーゼロッテと実況の遠藤くんと解説の小林さん』(原作:恵ノ島すず キャラクター原案:えいひ)で知られるマンガ家・逆木ルミヲさんが、紹介マンガを手がけました。お互いに大ファンだという芦花公園さんと逆木さんによるスペシャル対談をお届けします。
取材・文=朝宮運河


『極楽に至る忌門』紹介マンガ
(作:逆木ルミヲさん)

芦花公園さん×逆木ルミヲさんスペシャル対談

逆木ルミヲさん(以下・逆木):今日はお会いできて嬉しいです。芦花公園先生は以前からツイッター(現在はX)をフォローしていて、ポストを楽しませていただいていました。

芦花公園さん(以下・芦花公園):なんなら作家になる前からフォローしてくださっていましたよね。

逆木:割と古参ファンです(笑)。その方が作家デビューしたというので、すごい! ぜひ読まなきゃ! と思って手に取ったのが「佐々木事務所」シリーズの『異端の祝祭』でした。実はわたしはホラーがあまり得意ではないんです。夜中に思い出して眠れなくなってしまうので。でも『異端の祝祭』は本当に面白くて、一気に読んでしまいましたね。

芦花公園:ありがとうございます。

逆木:読んですぐに「コミカライズさせていただきたい」と思って、KADOKAWAの担当さんにもお伝えしたんです。具体的なことは考えず、勢いに任せてという感じで(笑)。その際は実現しなかったのですが、そこからご縁が繋がって、今回『極楽に至る忌門』の紹介マンガを描かせていただくことになりました。やりたいことは口に出しておくものだな、と思っています。

芦花公園:今回編集さんが逆木さんにお願いしたのは、イメージイラストだったんですよね。

逆木:はい。最初にキーワードをいくつかいただいて、そのカットを描いてほしいというご依頼でしたね。ただ『極楽に至る忌門』を読ませていただいて、もうちょっと内容に踏み込んだものを描いてみたいと思ったんです。それで映画の予告編のような、あらすじ紹介マンガを描かせていただきました。

芦花公園:イラストをお願いしたらマンガが出てきたという感じで(笑)、編集さんと本当にびっくりしました。しかも完成までの時間がすごく短かったですよね。キャラクターデザインなんて数日で決まって。お仕事の速さにも感動しました。

逆木:そこは芦花公園先生のおかげです。キャラクターの具体的なイメージを教えてくださったので、こちらも作業しやすかったですね。

芦花公園:こんなに素晴らしいマンガを、自分の小説のために描いていただいていいのかなと恐縮しています。これはぜひ多くの人に読んでもらいたいですね。


逆木:芦花公園先生の小説では『聖者の落角』が一番好きなんです。ホラー小説なのに泣きながら読みました。

芦花公園:そうなんですか。

逆木:タイトルの「落角」という言葉には、二重の意味が込められていますよね。鹿の角が生え替わる時に落ちるように、ある人物は墜落していき、別の人物は成長していく。その対比が美しいと思います。

芦花公園:まさにそうです。百パーセント意図を汲み取っていただいていますね。

逆木:落角という言葉の響きから、あの物語を思いつかれたのかな、とも思ったのですが。

芦花公園:確かに落角ありきでできた話ではありますよね。ツイッターでエゾシカの角が販売されているのを見て、鹿の角が落ちるってどんな感じなんだろうと調べてみたんです。意外に血が出ていたりして痛々しいんですけど、それが成長の過程だということを知って、そこから物語が膨らんできました。

逆木:でも作中でそういう説明は一切なさらないですよね。気づく人だけ気づけばいいという作りになっていて、しかも気づかなくても怖さの部分は変わらない。すごく大人な創作姿勢だなと思います。

芦花公園:どんなに詳しく書いても、全部分かってもらうのは不可能ですからね。だったら分からなくても大丈夫な作りにしようと。作品によって“難易度”は違うんですが、去年出した『食べると死ぬ花』(新潮社)は自分以外分からなくてもいい、というくらいの気持ちで書いています。

逆木:その点『極楽に至る忌門』は、これまでの作品に比べてだいぶ分かりやすい気がしました。

芦花公園:ええ。角川ホラー文庫30周年記念作品ですし、これまでと少し違うテイストの作品にしようと思いまして、最後に丁寧な説明パートを入れてみました。

逆木:最近話題の因習村を扱った作品ですが、キリスト教的な世界観が背景にあるような気もしたんです。日本的というよりヨーロッパ的。そこは芦花公園先生らしい因習村ものだなと感じます。

芦花公園:確かに〈鍵〉や〈門〉という概念はキリスト教っぽいですね。日本の伝承にはあまり出てこない。今回はいつものエッセンスはできるだけ薄めたつもりですが、自然と出てきてしまうんでしょう。

逆木:読んでいて連想したのは、ヨーロッパにおけるサンタクロース伝説です。興味があって一時調べていたことがあるんですが、サンタクロースってキリスト教がヨーロッパ諸国に広がっていく過程で、土着の信仰や伝承を取り入れたことで生まれたものですよね。

芦花公園:世界宗教ほどそれぞれの土地の信仰をうまく取り込んでいますよね。それはキリスト教もそうだし、仏教だってそう。信仰を広めるのって大変なんです。

逆木:『極楽に至る忌門』で扱われているのは、そうした信仰の変化みたいな問題なのかなと。

芦花公園:そうですね。デビュー作の『ほねがらみ』にも出てきますし、割と好きなテーマではあるんです。


逆木:今回もすごく怖かったんですが、一方で可哀想な話という印象も強く持ちました。結末近くで物部さんが「可哀想じゃと思う」と言っているとおり、神様も関わった人たちもみんな可哀想なんです。

芦花公園:ありがとうございます。ネット上の感想では「クズがひどい目に遭ってスカッとした」的な意見もあったんですが、作者としてはそこまでクズな人を出したつもりもなくて。その立場に置かれたらそうなってしまうよね、という書き方をしたつもりです。第一章の「頷き仏」の匠にしても、悪気があってああいう行動を取ったわけではない。

逆木:匠が隼人を故郷の村に連れてきた理由をどう考えるかで、物語の受け止め方も変わってくる気がしますね。わたしは単純に隼人への好意と、実家のお祖母ちゃんを喜ばせたいという気持ちから誘ったのかなと思いましたが、復讐心があったと解釈できないこともない。どちらとも取れるようになっていますよね。

芦花公園:作者としては、好意があったから誘ったという解釈です。それを受け入れた隼人には、匠に対する罪悪感がある。

逆木:隼人は弱さのある人ですよね。優しさと言い換えてもいいかもしれません。そこを〈てんじ〉という神様につけ込まれるので、やっぱり可哀想な人だなと思います。

芦花公園:深く読み込んでくださってありがとうございます。

逆木:芦花公園先生の作品に出てくる怪異って、明確な悪意を持っていることは少ないですよね。むしろシステムに近いもののような気がします。

芦花公園:おっしゃるとおりシステムですよね。八丈島にはモデルになった〈てんじ〉という妖怪がいて、普段はいたずらもするんですけど、飢饉の時には善良な村人のために食べ物を置いていってくれるんです。この妖怪が悪人ばかり住んでいる四国の村にいたらこういう結果になるんじゃないか、という発想ですね。あ、四国といってもあくまでわたしの中のイマジナリー四国ですけどね(笑)。

逆木:イマジナリー四国(笑)。

芦花公園:現実の四国はご飯が美味しいですし、大好きな土地です。ところで最近、閉鎖的な村を扱ったホラーやミステリ、いわゆる“因習村”ものが流行っているじゃないですか。わたしも割と好きなんですけど、ブームが広がるにつれて「それって差別じゃないの? 田舎を見下しているんじゃないの?」という意見も出てきた。そうじゃないんだよ、ということを書きたかった話でもありますね。

逆木:フィクションでよく描かれる田舎の嫌さ、人間関係の面倒くささって、あるかないかで言ったらあると思うんです。

芦花公園:あるんでしょうね。それを温かいと感じる人もいれば、面倒くさいと感じる人もいる。それは人それぞれで、どちらの感情も否定されるものではないと思います。そういう感情を抱くのは、別に差別でもなんでもない。

逆木:わたしは昔ながらの風習を守り続けている、田舎の変わらない生活が嫌で、東京に出てきた人間なんです。でもあらためて距離を置いて考えてみると、そういうものをすべて切り捨てて、都会に移住するのが正しいとも思わない。これは向き不向きの問題なのかなと。

芦花公園:そう、感情も問題だから、正しいか正しくないかで割り切れるものではないですよね。田舎の嫌さを描いているから因習村ホラーはよろしくない、という主張はおかしいんじゃないか、と個人的には思っています。

逆木:この村めちゃくちゃ怖いな、とは思いますけどね(笑)。『極楽に至る忌門』では、救いがあるかどうか確信が持てないまま、村人たちが罪を重ねていくのがまた辛いですね。

芦花公園:死後の救いについては、実際死んでみないと分からないですからね。ただ昔の人は死後の救済をすごく大切にしていたし、現代でもそういう価値観を守っている村があるかもしれない。

逆木:もし死後の世界があるとしたら、芦花公園先生も行ってみたいですか? わたしは現世でもう十分というタイプなんですけど。

芦花公園:わたしも絶対行きたくないです。仮に行くとしてもエジプト神話の死後の世界みたいに、一瞬で化け物に食べられて終わり、というのがいいですね(笑)。

逆木:同じくです(笑)。芦花公園先生の小説は、読んで「ああ、面白かった」で終わりじゃなくて、あのキャラクターの真意はどこにあったんだろう、あの場面にはどんな意味があったんだろう、とずっと考えてしまいます。だから読んでいる人を見つけたら、すごい勢いで語り合いたくなる。ある意味、SNS向きなのかもしれません。

芦花公園:自覚はあります。出身地はツイッターですから(笑)。皆さんに色々語っていただけるのはありがたいですし、どんな感想も基本的には歓迎です。逆木さんもお忙しいのにじっくり読み込んでくださって、ありがとうございました。

逆木:読み返すたびに新しい発見があったり、見え方が違ったりするところも大きな魅力だと思っています。今日はありがとうございました。

書誌情報

極楽に至る忌門
著者: 芦花公園
発売日:2024年03月22日
ISBNコード:9784041143254
定価:880円(本体800円+税)
ページ数:352ページ
判型:文庫判

最強の拝み屋・物部斉清ですら止められなかった土地の怪異
四国の山奥にある小さな村。そこには奇妙な仏像があり、大切に祀られていた。帰省する友人・匠に付き添い、東京から村を訪れた隼人は、村人たちの冷たい空気に違和感を抱く。優しく出迎えてくれた匠の祖母の心づくしの料理が並ぶなごやかな夕食の最中、「仏を近づけた」という祖母の言葉を聞いた瞬間、匠は顔色を変える。その夜、匠は失踪し、隼人は立て続けに奇妙なことに巻き込まれていくが――。東京での就職を機に村を出て、親族の死をきっかけに戻ってきた女性が知った戦慄の真実。夏休みに祖父の家にやってきた少年が遭遇した恐るべき怪異。昭和、平成、令和と3つの時代の連作中篇を通して、最強の拝み屋・物部斉清ですら止められなかった、恐ろしい土地の因縁と意外な怪異の正体が浮き彫りになっていく……。ホラー文庫30周年記念、書き下ろし作品。

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