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vol.1 治療以外にも全力の歯科医。だからこそ、見えた景色

はじめまして。歯科コンサルタント 角祥太郎(かど しょうたろう)のマネージャーを担当している高橋と申します。いきなりですがみなさんは、「歯科コンサルタント」と聞いてピンときますでしょうか?

「どんな仕事なの?」「歯医者とは違うの?」「そもそも角さんって何者なの」。私、角のマネージャーについて約半年なのですが、会う人、会う人にそんなことを聞かれます。もちろん毎回ご説明するのですが、みなさんに角をより広く、深く知ってもらうために、今回、noteをスタートしてみることにしました。

私自身、新人マネージャーでもあるので、実は角のことを、わかっているようでわかっていないのではないかと思っています。ですから、みなさんと同じ目線で、リアルな疑問をぶつけていきますので、全6回(今の所!)、最後までお付き合いください!

1回目の今回は、角が今の働き方に辿り着くまでをクローズアップ!若手時代を振り返ってもらいながら、彼のルーツをひも解いていきます。

「歯医者って?」「社会って?」歯科医療を自分ゴトにするまで

―― いきなりですが、角さんの仕事って、一言で伝えるのが難しいと思うんですよね。角さんを知っていただくためにも、順を追ってじっくりお聞きしていきますので、よろしくお願いします!まずは、歯科医師を目指したきっかけを教えてください。

高校時代は、芸術方面に進みたいと思っていたので、歯科大に進学するなんて夢にも思っていませんでした。画家や作家の先生に会いに行くほど、アートの世界に憧れがありました。ただ、あるアーティストの方に会った時に「とりあえず、ライセンス(歯科医師免許)はとっておいたほうがいいですよ」とアドバイスされて(笑)。これが歯医者を目指したきっかけなんですよ(笑)。

―― 歯科医師免許の取得を勧められただけ、ですか…?志高く、大学選びをしたのかと思っていましたよ!

もともと「歯科医師」という仕事が身近ではありました。東京歯科大学を選んだのも、祖父や父の出身校だったからですし。

ただ、大学時代はバンド活動に明け暮れたり、学生プロレスをしたり、真面目な生徒とは言い難い学生でしたね(笑)。また学校の先輩から、「歯科医っておもしろくないぞ」と言われていたので、それを真に受けちゃった部分もあるかもしれません(笑)。

歯科医師に魅力を感じない。でも社会に出なければいけない。じゃあどうしよう?と迷った末に、大学卒業後は大学院への進学を決めました。

―― なるほど。院では歯科の研究をされたのですか?

大学院での専門は解剖学。進学の動機も特になく、そこは力のある講座だったので、研究してお金がもらえると聞いて、「なにそれ、やる!」っていう(笑)。ただ、研究自体は真面目にしていましたよ。大学院生活を終える頃でしょうか。

大学時代の同期である内山という人間に、たまたま会ったんです。なんでも、彼が働いている病院のオーナーとお前は気が合いそうだから「一回、うちに来い」というんです。

すでにあるところから内定をもらっていたので、一旦は断ったのですが、その時に内山が、「とりあえず、来いよ。今日は午後から全顎治療をするからさ」としつこく誘ってくれて(笑)。

で、訪れてみたら、内山はすでに臨床現場でものすごくレベルの高い治療をしていて、衝撃を受けたんですよね。同世代でもこんな治療ができるのかって。で、オーナーに会わせてもらったら雰囲気もよくて。内山が働いている「海星会」の就職が決まったんです。

―― 角さんは、自由気ままな学生生活を送っていたようですが、就職を機に急にスタンスが変わりましたよね。なにか心境の変化があったんですか?

理由のひとつに、競争心があると思います。いま振り返ると、「何かで勝たなければいけない」と考えていたんでしょうね。国家試験も浪人して、大学院に通って学生生活が長かった分、大学時代の同期とキャリアに差がついていることを焦りを感じていたのかもしれません。海星会への就職を決めたのも、若手が挑戦できる環境だったから。自分がどこまでできるかを試したかったんです。

“数字”をとにかく追い続けた、歯科医師時代

―― なるほど。歯科医師としてキャリアをスタートした当時は、客観的に見てどんな先生でしたか?

技術を習得しつつ、つねに「どうしたら患者さんに歯科の必要をもっと伝えられるだろう?」と考えていました。歯科医師の技術や治療実績って、経験を重ねて、ようやく身につくものですよね。

でも、患者さんから歯の悩みを「聞き取る」ことは、治療とは別のスキルです。経験がない自分でも勝負できる。そしたらとにかく営業成績というんですかね?変なところで頭角を表していきました。

―― 営業成績で頭角を表す歯医者さんって、なんだか新鮮な感じがしますね。どちらかというと歯科医師そのものが、「技術者」や「職人」というイメージが強いです。

組織のなかで生き残るために、代替不可能な人材になりたかったんです。スタートが遅かった分、「技術」とは別の何かでも勝負しようとしていたんです。そう考えた時に「患者さんとの信頼関係」を取ることならできると考えたんですよね。結果自費も上がって周囲のドクターからも「どうして角くんはそんなに契約を取れるの?」って散々、不思議がられました。

―― 臨床経験もそこそこの新人が、たくさん契約を取っていたら、そりゃ言われますよね。ただ、ちょっとわからないので教えてほしいのですが、そもそも、歯科医師における「契約」って何を指すんですか?

そうですよね、わからないですよね(笑)。例えばある患者さんが虫歯で来院されて銀歯を被せなければならない。銀歯の場合は保険が適用されますが、じゃあセラミックだなんだとなると保険適用外になります。患者さんは選択の自由がありますが、医院からみれば、保険適用外の治療にしていただいた方が、売上げにつながるわけです。

―― そういうことですね。そんなに契約が取れていたということは、角さんの営業トークに何か秘訣があったのですか?

それが、とてもシンプルなんです。一人ひとりの患者さんに対して、本当に必要な治療法を提案していただけ。周囲からもよく「角は高額な治療ばかりを勧めている」と言われることがありましたが、お金を取りたくて保険適用外の治療を勧めていたわけではないんです。確固たる理由があるんですよ。

―― どういうことですか?

歯科業界のネガティブな部分から説明していきたいと思うのですが、「保険適用の治療法」自体が長年アップデートされていません。

歯科の保険治療が決まったのは約60〜70年前になるのですが、当時はまだ、虫歯の原因がわかっていませんでした。なぜ虫歯になるのか原因不明ではあるけれど、虫歯ができたから削らなきゃ、穴ができたら塞がなきゃ。そういう考え方で、みんな治療をして社会を助けていってたんですよ。

―― 本当ですか!?信じられない……。

そのときは屋根の修理をする大工さんに近い。というかですね・・・もちろん、いまは研究が進んで歯科治療技術も格段に向上しています。ただ、それなのに、保険適用の基準が“大工仕事”の時のままで、まだまだ色々と医療の現場とのズレが残っているんですよね……。

――「虫歯=削る、被せる」なのかと思ってました。

そうでしょう!でも、単純にそうとは言いきれないんですよ。削らなくていい虫歯もありますから。虫歯と一言でいっても、その原因や状態、進行次第で、治療法はたくさんあるわけです。患者さんにとって必要な治療と、巷の多くの歯科医が勧める保険治療が、イコールとは限らないんです。

―― 目からウロコです……。ということは、角さんはあくまで患者さん一人ひとりの状態を鑑みながら、治療法を提案していたということですね?

はい。だから「高額な治療を取りたいから」が前面に出ているわけではなく、「患者さんに適した治療をお勧めする」

その結果、患者さんの悩みを解決するためには「質の高い治療がベストで、それだとどうしても高くなってしまう」というロジックといいますか。もちろん患者さんにも、きちんと説明するので、みなさん納得していただけるんですよ。

―― だから契約がたくさん取れていたんですね。少し話が戻るのですが、「技術面はすぐには伸ばせない」とおっしゃっていましたが、とはいえ、営業だけでなく治療も角さんがしなければいけないわけですよね?

そうなんです(笑)。技術が追いつかない部分は、当時一番悩んでいましたね。良い治療、質の高い治療を患者さんに勧めているのに、その治療を100%自分でこなせないというのはもどかしかったですし、口先ばかりで、このままだと“詐欺師になってしまう”と危機感を抱いていました。そんな折、同期の内山がある先生を紹介してくれたんです。

―― 内山さんは、角さんの恩人ですね!で、その先生というのは?

土屋先生という方です。歯科業界全体のボトムアップを図ろうと、若手の育成に尽力されていて、彼の勉強会や講演に参加して、本当の実力がついていきました。自己流でバットを振っている人と、正しいフォームを知っている人とでは、同じ素振りをするでも得るものが違いますよね。

それと同じで、正しい知識を身につけられたことで、日々の治療の中でのスキル向上のスピードが格段にはやくなったんですよ。技術が伸ばせたことで、患者さんに対して、より自信を持って向き合えるようになりましたし、患者さんの満足度も上がったように感じました。あとは、自分の中で「良い歯科医師の定義」が確立できたのもこの頃ですね。

ーー その定義、ぜひ教えてください。歯医者選びのポイントにもなりそうですね。

診査診断、治療計画が全てだと思います。患者さんの口の中を診たときに、「治療にかかる期間」「口腔内が悪くなった経緯」「どう戻していくか(治療法)」。この3点がすぐに分かること。そして、治療法に関しては、治療プランを複数提示できて、その中からよりベストな治療法もお勧めできること。

これが、僕の中での良い歯科医師です。みなさんも、最初の診察で治療のゴールが見えなくて不安になることありませんか?そんな歯科医師さんに、自分の大切な歯を任せるって、かなり勇気がいりますよね……。

―― たしかにそうですが、そんな歯医者さんには、会ったことがありませんよ(笑)。土屋先生との出会いを経て、その後も、海星会で歯科医としてのキャリアを積まれたんですね。

海星会では、臨床医だけでなく副理事長や理事長、代表取締役と、現場から経営職まで一通りを経験させていただきました。ただ年々、自分の中で折り合いをつけていくのが、難しくなっていったんです。

――といいますと?

働くための仕事を“ライスワーク”、人生を通して成し遂げたい仕事を“ライフワーク”と言いますよね。当時僕も、「食うためだけには働きたくない」と考えていたんです。ですから、様々なことに挑戦しましたし、すべてに全力でした。お笑い芸人としてR-1グランプリに出たり、バンドを組んでマキシマムザホルモンと対バンを経験したり、プロレスラーとして曙選手や飯伏選手、高山選手と試合をしたり。

ただよくよく考えてみると、歯科医師という仕事に対して、本気で向き合えていなかった。というか、向き合う覚悟ができていなかったために、逃げ道を作って、バランスを取っていたんですよね。

大きな挫折を経て起きた、ブレイクスルー。自分のコアを見つけることの大切さ

―― ちょっと待ってください。角先生、マキシマムザホルモンと対バン、曙と試合。活動内容が濃すぎです……。でも確かに、いろんなことに手を出す時って、ひとつのことに向き合う覚悟ができていないから、というのは納得です。

一方で海星会では、たくさんの挫折を経験しました。自分のマネジメントミスで信頼を失ったり、大きく数字を落としてしまったり。心身ともに疲れ果てて、ボロボロになりました。

プライベートでも大きな出来事があって……。下の子どもが、わずか1歳で天国に旅立ってしまいました。生まれつき難病を患っていて。この世にはどうすることもできないことがあるんだと、打ちのめされました。

当時の自分は30歳半ばで収入もそこそこにあって、「医療法人代表としてバリバリやっています!」みたいな人間でした。でも、大きな挫折を経験したことで、すべて自己中心的に突っ走っていただけだと、気づかされました。と同時に、「僕の価値って?」「これからの人生を掛けてやりたいことってなんだろう?」って、立ち止まって、真剣に考えてみたんです。

時間をかけて、じっくり思考を深掘りしていくと、当時の僕の働き方は、確かに金銭面では成功しているかもしれないけれど、「心が本当に喜ぶこと」ではなかったと気づかされました。自分のコアで働いていなかったんです。

――自分のコアですか。それは企業でいう「理念」のようなものですか?

「働く動機」に近いですかね。「ずっと続けていること」や「自分がワクワクすること」には、必ず理由があるんです。理由がなければ行動はできないですから。コアを見つけるのは、実は簡単なんです。

まず、自分の好きなことを1つ書き出す。次に、好きな理由を5つ書いてください。最後に、その理由の中で一番残しておきたい理由をピックアップします。それが、その人が生涯をかけて世の中に提供したい価値。その価値こそが働く動機であり、コアになるんです。

―― この取材の後にやってみます!それで、角さんのコアは何だったんですか?

無関心な人の心にフックをかけることでした。僕は歯科治療の中でも、「前歯の治療」が好きなことに気づいたんです。前歯をキレイにしたら患者さん自身が歯ブラシを頑張るようになるから。つまり、前歯の治療を通じて起こる「人の行動変容」が好きなんですよ。

当時の仕事では、つねに数字を追いかけていました。法人の経営も成功させ、事業を大きくしないといけませんし。確かに法人としては売り上げを伸ばすことに価値はあるのですが、僕が本当に生み出したい価値では無かったんですよね。また、某大手メーカーさんから業務改革のお仕事の依頼を受けたこともひとつの転機になりました。

―― その大手メーカーさんっていうのは、歯みがきや歯ブラシ、スキンケアなどの製造販売をしている、あの大手メーカーさんですか?

そうです。その大手メーカーさんから依頼が来た時に、海星会代表の肩書きで仕事をしてしまうと、僕個人の判断では自由に考え、行動することができないと思い、個人でお受けしたんです。そして、その時に、僕の個人の会社である「clapping hands」も立ち上げたわけなんです。

―― そこから、いまの角さんのスタイルが徐々に見えてくるわけですね。個人で仕事を始めてから軌道に乗るまで、順調だったのでしょうか?

スタートから1年ほどは、裏方としてシステム開発会社のサポートや歯科材料の目利き等を請け負っていたんです。ただ、「なんか違うな」と、正直、行き詰りは感じていました。

ターニングポイントになったのは、息子の言葉なんです。休日に2人でドライブした時のこと。当時、まだ小学校3~4年ぐらいでしたかね。助手席で息子が、「2100年になったときに、僕、93歳なんだよね」って言うんですよ。

僕は生きていないけど、息子はそんな年齢になるんだなあと思いを馳せた時に「あれ?こいつに寝たきりになってほしくない、健康でいてほしい」って素直に思えたんですよね。

そしたら、いろんなモヤモヤがクリアになって、急に腑に落ちた。それまで僕は、“歯科医師として”とか“男として”みたいな枠を勝手に決めて、見栄やプライドが先立って仕事をしていたと認められたというか。

プライドが邪魔して、頭でっかちになっていて自分の行動を自分で無意識に制限していたけれど、そのしがらみから一気に解放されたんです。そして腹がくくれた。「息子の未来が健康であってほしい」。そのためなら、僕はどんな批判を浴びようが、矢面に立って戦えると覚悟できたんですよね。「歯科コンサルタント」としての、本当の始まりでした。


【マネージャー後記】

初回は、角が「歯科コンサルタント」になる前の話を中心にお届けしました。正直、今の角さんとはまったく違う考え方、働き方されていて驚きましたし、大きな挫折経験も初めて聞きました。

今、様々な歯科クリニックから依頼を受け、経営面、治療面において、コンサルティングをしている角ですが、患者さんの視点に立ち、最適な提案を導き出すスタイルは、すべて自身の経験に裏付けされたものだったんですね。

さて次回は、角が現在、「歯科コンサルタント」として取り組んでいる具体的な事業内容について、また角がコンサルティングを通して実感した、歯科医院に広がるリアルな悩みを紹介していきます。健康志向が高まっている現代において、「歯科医にできることってなんだろう?」そんな情報もお届けできたらと。来月の更新をお楽しみに!


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