台風の後を透明で渡れ
遅く起きて、昨夜に台風が吹き荒らした街へ出た。
道の真ん中は風が通った後みたいにがらんとしていて(ひっそりと犬夜叉の"風のキズ!!!"を思い出した。犬夜叉は私の初恋)、傾斜のついた端っこに、空き缶やデカビタドリンクのごつめの瓶がごろりと転がっているのを見かけた。
今はポイ捨てに厳しいし、道にあったゴミ箱さえ撤去されたりして街が綺麗めだから、最近ではなかなか見られないちょっと懐かしい光景だった。
一昨年、同じようにこのくらいの季節に台風が来たことを思い出す。
あの時はまだバイトの身。東京駅の近くに出勤だったのだけれど、きちんと整備された舗道に、今日と同じように色々なものが散らばっていた。くしゃくしゃの白いティッシュとかもあった。
風が運んできたゴミと濡れた銀杏がまばらに潰れた道は雑然としていて、でもすっきり光っていた。さばさばしていた。
その"なんだか浮き浮きしてるけど疲れてて、"な感じが当時フリーターだった私の身の上にはどこかマッチしているみたいで、その景色はとても素敵に映った。
私は稼ぎたくて昼のバイトと夜勤を掛け持ちしていたこともあって、フリーターって思っていたよりも全然自由じゃなかった。だけど、あの頃の落ち着かない根なし草感は、口笛吹きたいくらい性に合っていたな。
永遠みたいな秋晴れで、たしかイヤホンからはガロが流れていた。
散らかった道をとぼとぼ歩きながら聴く〈都会の秋〉みたいなメロディーが心地よくて、
"あーこんな日にはフォークが似合うな。これからもしまたこんな風に街が荒れたら、翌日はきっと同じようにフォークを聴くんだろうな"
とそんな確信もあったけれど。
ニ年後の私は、oasisの気分でした。うんうん、ミドルハイテンションなロックが聴きたかった!
ところで、今日の格好はとても素朴だ。
薄いフリースに、ブーツカットでもスキニーでもないめっちゃ普通のよく馴れたジーパンを穿き、スニーカーで、髪は後ろに束ねただけのひとつ結び。
お化粧はせずに日焼け止めだけ塗って、マスクをして、ほとんど手ぶらで出かけた。
行き先は繁華街。
てきとーに電車に揺られ、てきとーに人波をすり抜けていく。休日だから人が多かった。駅前ではデモが行進していて、立ち止まって何を訴えているのか見ようとしたのだけれど、その旗やプラカードだけではどうしてもわからなかった。私だったらプラカードに「〇〇で検索」とか、詳細に誘導する何かを大きく載せたりするかなぁ、とかぼんやり思った。
その後TSUTAYAで籠いっぱいにCDを詰めたり、ブックオフで高い場所にある「るろうに剣心」を取るために遠くから踏み台を持ってきて登ったりした。
好きなだけ街を満喫したら、いつも電車で帰るところをバスに乗ってみた。知らない街を通るうちに、思いがけないところに細い路地や商店街があるのを見つけた。
バス、はまるかもしれない。元から高校がバス通学だったから抵抗はなかったけれど、電車なら一駅のところを、ぐるんと他区に入りながらゆっくり回るのとか、とても新鮮だった。また色々な場所で乗ろっと。
休みの日は、透明人間になるのが好き。
こうやって何にも気にせずにすっさすっさと往来を渡ってしずかに愉しむのは、サイコーに気持ちいい!