女性の基本的な喜び…

娘が小さい頃、デザイナーの大橋歩さんが手作り感覚で発行していた雑誌『アルネ』を好きで買っていました。既刊のものをバックナンバーで揃えた分が多いので、買いはじめたのは発行からかなり後になってからのように思います。

中でどうしても忘れられない記事があります。輪島で塗師をしている夫を、職人さんとともに面倒を見ている主婦に取材したお話なのですが、彼女の『人に食べさせたり、子供を育てたりすることは、女の人の基本的な喜びだと思うの』というお話を読み、育児真っ只中のぼくは強烈な違和感を感じました(2004年12月15日発行第10号)。

この取材対象の女性の感覚に反発を感じたのではなかったと思います。彼女はきっと毎日育児や職人さんを食べさせるのは大変だけれど、私はがんばってこなしているし、これが『わたしの喜び』なのよ、と言いたかっただけだと思います。ただ、この発言を拾い上げて記事にしてしまう大橋さんの感覚には、残念なものを感じました。

大橋さん自身は結婚してお子さんもおり、かつ平凡パンチの表紙や村上春樹さんとのコラボなど第一線のデザイナーとして活躍されている方ですが、この『アルネ』では『専業主婦』がよく取材されています。おそらく、とりわけ男女雇用機会均等法以降、肩身の狭い思いをしているかもしれない専業主婦に光を当てなければ、というような意図をお持ちだったのだと察しますが、そのようにして男性並かそれ以上に稼ぐ女性が、同じ女性である専業主婦との『みぞ』を埋めるつもりで、上記のような発言を取り上げたのであれば、この国のジェンダーをめぐる不幸な状況をそのまま反映しているなあと感じたのでした。

話はそれますが、この号では日本を代表する住宅建築家、中村好文さん設計の村上春樹さんのご自宅がたくさんの写真入りで、ご本人も登場されて紹介されています。村上春樹さんのことをご存知であれば、これがいかにびっくり!なことかお分かりかと思いますが、大橋歩さんでなければできない取材ですね。ぼくも買って読み進めるまで知らなかったのでびっくりでした。

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