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好きになるということ

僕は常々、故意に、意図的に、何かを「好きになる」ことは不可能だと思っている。

言い換えると、「好きになる」という感情の動きを、意識的にコントロールすることは不可能だと思っている。

理由は単純で、こんなことが可能なら誰も人間関係で悩まないからだ。

たとえば、上司から理不尽な要求されたらその上司のことを好きになればいいし、その理不尽な要求の中身も好きになればよい。会社が嫌で辞めようと思っている人は今すぐ会社を好きになればいいし、隣の部屋でギターの練習に明け暮れるデシベル野郎のことを好きになれば、毎日タダで音楽を聞かせていただけることに感謝するかもしれない。

心臓の動きをコントロールできないように、湧いてくる感情もまた、意志の力ではコントロールできない。

僕が営業の仕事をしていたころ、とても不思議なアドバイスを受けた。それも何度も。

そのアドバイスとは「自分が商品のことを好きならなければ売れない。だから、まずは自分が商品を好きになりなさい。」というものだ。

好きになるという感情の動きをコントロールしろだって?!

ちなみにこのアドバイスをした僕の先輩が特殊だったわけではない。実は、営業の本を数冊読むと、この手のアドバイスは必ず出てくる。

営業という世界に、いかに気合と根性などの精神論が蔓延しているか示す好例だろう。

不可能なことを平気でやれと言ってくる。

まあ、現実問題として、自分が全く興味のない商品を売るのは確かに難しい。しかし、だからといって無理やり好きになろうとするのは無意味だ。では、どうすればいいのか。

僕がたどり着いた答えは、「理解する」ことだ。好きになることはできなくても、商品の特性や利点を理解し、それを必要としている人に届けることはできる。

実際、僕は自分が興味を持てない商品でも、その分野に詳しい人や実際の契約者の声を聞くことで、理解を深めることができた。そうすることで、自分自身がその商品を好きにならなくても、その価値を他人に伝えることができた。

結局のところ、営業の本質は「好きになる」ことではなく、「理解し、伝える」ことにあるのだと思う。無理に感情を変えようとするよりも、プロとしてのスキルを磨き、相手のニーズに応えることが重要だ。

そう考えると、「商品を好きになれ」というアドバイスは表面的で、本質を見誤っていると言わざるを得ない。人間の感情は複雑で、簡単に操作できるものではない。しかし、理解とスキルアップによって他者に貢献する道は開ける。知らんけど。

さて、商品の話はこの辺にして、人間について語ろう。

人間についても同じことが言えるだろうか。

職場の人間関係でも同じような問題に直面することがある。たとえば、嫌いな人と一緒に働くことになったら、どうすればいいのか。

無理にその人を好きになろうとするのは、やはり不可能だ。感情はコントロールできない。しかし、仕事を円滑に進めるためには、何らかの方法で対処する必要がある。

僕がたどり着いた答えは、「仕事に集中する」だ。商品とは違い、相手の考え方や価値観、背景を理解するのは難しい。たとえば全体主義経営をするうちの社長を理解するのは僕には無理だ。なぜこのご時世にヒトラーのような経営スタイルをとるのか。アホなのか。しかも本人に自覚はなく、日本で一番従業員思いの会社だと自負している。アホなのか。もう理解とか無理やねん。

こんな社長と働くとき僕は、仕事の目標や目的だけに焦点を当て、相手のことは考えない。個人的な感情を脇に置き、プロフェッショナルとしての役割を果たす。そうすることで、感情的な摩擦を最小限に抑えることができる。

また、自分自身の集中力を高めるチャンスと捉えることもできる。嫌いな人と働くときというのは、とにかく脳のリソースを消費する。そんな中、仕事に意識を向ける訓練を積むことは、このカオスな時代を生き抜くうえでとても重要だ。

結局のところ、無理に「好きになる」必要はない。しかし、ビジネスパートナーとして協働することは可能だ。人間関係は複雑で、煩わしいが、意識的にリソースの投資先をコントロールすることによって結果を出すことはできる。

そう考えると、「嫌いな人を好きになれ」というアドバイスもまた、現実世界では虚しい。大切なのは、感情を無理に変えようとするのではなく、嫌いなまま、どう対処し、どう協力していくかを見つけることだ。

追伸

そうはいっても、我慢できないくらい嫌いなときはどうするか。
そんなときは、スパッと辞めよう。辞めてやるさ。
人生は短い。

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