【才の祭】てぶくろ Side.B【ショートショート】
Side.Aからどうぞ↓
Side.B
手編みの手袋をプレゼントしたのが二人の馴れ初め。
中三のバレンタインデーだった。
「前から好きでした。よかったら受け取ってください」
手を差し伸ばした彼の恥ずかしそうな顔がいまでも目に浮かぶ。
生まれて初めて贈った手袋はセルリアンブルーの極太で編んだミトン型。
彼はその場で手につけ、ニッコリと微笑んでくれた。
「よかったらつきあってください」
彼からの言葉に天にも昇る気持ちだったのを覚えている。
だけど、
その後、彼がその手袋をつけてくることはなかった。
なんだかやきもきして、親友の由香にそのことを話した。
「よりによって手編みの手袋?あいつのお母さん編み物教室の先生だよ」
その日の放課後、由香に聞いたカルチャー教室まで行ってみた。
編み物講座のチラシには、彼のお母さんと数々の作品の写真があった。
ただ、素晴らしかった。わたしは言葉を失い、なぜか耳まで熱くなった。
わたしの編んだ下手な手袋なんてつけるはずないじゃん。
彼に申し訳ない気持ちで一杯になり、それ以来手袋の話題は封印した。
手編みのプレゼントを渡すシーンがドラマで出てきたりすると、彼はなんだかそわそわしているように感じる。きっと気にしてるんだろうな。
その後、紆余曲折はあったものの7年前に二人は晴れてゴールイン。
結婚してからは、是非編み物を教えて欲しいとお母さんにお願いした。
私もいつか、あんな素敵な手袋やマフラーを編んでみたい。
今でもお母さんの腕とセンスには敵わずへこむ。
でも、彼が喜んでつけてくれるまでには上達したかな。
今年も手袋の必要な季節がやってきた。
彼にはノルディック模様の新作、翔太にもミトン型の手袋を初めて編んだ。
将来、翔太に手編みをプレゼントしてくれる子が悲しむと可哀想だ。
極太であえて目飛びや目つぶれのあるように編んだ。
子供にはこれくらいで十分なんだよ。
幸い、翔太は飛び跳ねて大喜びしている。
「ママ、ありがとう!」
「翔太、なくさないように大切にしてね。人が編んでくれた手袋は絶対になくしたり捨てたりしたらダメ。上手いも下手も関係ない。編む人はあげる人のことを思いながら、一目一目、大切に編んでいるのよ。
あなた。
こうして翔太に手袋を編むことが出来たのもあなたと出会えたから。あのときわたしの下手な手袋を受け取ってくれて本当にありがとう」