【ショートショート】ロングスリーパー・ショートスリーパー
人間の三大欲求のうち、食欲と性欲では、彼と私の相性はバッチリだ。
恋人と同じものをおいしいと感じられることは、交際が長続きする条件の一つかもしれない。身体の相性もそうだ。これについても彼とは運命的な出会いを感じている。
だけど、残る睡眠欲だけは事情が違う。私は極端なショートスリーパーで、彼は極端なロングスリーパーだ。
彼は私よりも5時間も早く眠りにつく。その後、私はまんじりともせず、彼なしの時間を過ごす。寂しいと嘆いても仕方ない。人それぞれ必要な睡眠時間というものがあるのだ。
寝坊助さん。
彼の寝顔を見ていると、いつまでも飽きない。私を見つけてくれてありがとう、という感謝とともに、尊敬の念が湧き上がってくる。彼は、私に優しいことはもちろん、自分磨きにも余念がないからだ。資格、語学、コンピュータ、なんでもござれ。どんな試験にでも簡単に合格する印象がある。
一日5時間、一年にすると1800時間以上も、私より多く眠っているはずなのに、いったいいつ勉強しているの。いつも不思議に思ってしまう。
さて、そろそろ寝るか。
いい夢が見られるといいな。
「おはよう。よく眠れた?」
夢の中の彼も優しい。
彼が淹れてくれたコーヒーをすすりながら、ゆったりとした会話を楽しむ。
「いつもありがとう。自分には厳しくて、私には優しいあなたって、完璧な人ね。神様が与えてくれた時間の量が、私とは違うみたい。ただ要領がいいだけなのかなぁ。」
「要領なんかじゃないよ。だけど、人より得していることが一つだけあるんだ。僕は一日に5時間眠れば十分ということ。毎日10時間眠る君が起きるまで5時間ある。この時間を勉強なんかにあてているだけさ。年間にすると1800時間。結構大きいよ。」
夢の中の寝坊助さんは、おかしなことを言う。自然に笑みがこぼれる。
その後も、いつも通りの長い夢が続いた。
お風呂に入ったり、甘いものを食べたり。ふわふわした、いい夢だった。
体感的には10時間以上あったかなぁ。
夢の中の時間感覚は不思議だ。
「おはよう。」
彼の声でようやく目が覚めた。
時計を見ると、きっちり14時間。いつも通りの睡眠時間だ。
「よく眠れた?」
寝坊助さんも、19時間ぶりに起きたばかり。まだ眠そうだ。
いつも通りコーヒーを淹れてくれている。
さて、今日もいい天気。
お風呂に入って、甘いものを食べようっと。