異語り 032 来訪者
コトガタリ 032 ライホウシャ
冬の間、家の庭は雪に埋まる。
我が家の庭は裏に作ったので、周囲も家に囲まれ家族以外が歩くことはまずない。
一年の内4ヶ月ほど出られなくなる庭だが、時々何かの足跡が残っていたりして結構楽しい。
それも雪が降るたびに真っ白にリセットされるので楽しみも持続する。
ある時は、庭を横断していった猫の足跡。
また別の日にはバタバタと羽の後まで残していったカラスたちの遊び跡。
小さなネズミの足と尻尾の跡。
風で雪玉が転がった跡など、バリエーションも豊かだ。
ある朝、カーテンを開けると思わず固まってしまった。
庭一面に見たこともない跡がついている。
お尻で滑ったような? ソリのシュプールのような?
幅は20センチくらいあるうねうねとした跡。
跡自体も平坦ではなく、中華鍋で滑ったようなくぼみがついている。
さらに所々の溝の脇に何かで引っ掻いたような跡もついている。
それが庭中を蛇行するように奥から手前まで幾重にも付けられていた。
もちろん家の庭には斜面などない。
普通のただの平たい庭だから、尻だろうがソリだろうが普通は滑ることはできないと思う。
ぱっと見たイメージでは蛇の這った跡かと思ったけれど、いくらなんでも大きすぎるし、しかも蛇は冬は冬眠しているはずだ。
あれこれ想像を働かせてみても、納得のいく答えにはたどり着かなかった。
起きてきた子供達と「ふしぎだねえ」と話していたら、
ザァーッと風が吹き上がり地吹雪で庭が見えなくなった。
「うわ、ホワイトアウト!」
部屋の中も薄暗くなる
ふと時計を見るといつもの登校時間が迫っていた。
「時間遅れるよ!」
後はバタバタと準備に追われ、しばらく庭の跡のことを忘れてしまっていた。
子供らを送り出しもう一度庭を眺めた。
玄関は晴れていたのに庭はまだ白くかすんでいる。
「風が巻いてるのかしら?」
屋根などに積もった雪が風に吹かれて霞むのもよくあること。
そのまま家事に取り掛かり、庭の跡のことはすっかり忘れてしまった。
さらにその日は昼前からまた雪が降り始め、子どもらが学校から帰ってくる頃にはすっかり庭はリセットされてしまっていた。
ここに越してきて10年近くになるが、あんな跡は今まで1度も見たことがない。
そしてあれ以来、あんな跡はやはり見たことがない 。
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