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異語り 164 ぐるぐる

コトガタリ 164 グルグル

40代 男性

天気が悪いと頭が痛くなる。
【気象病】というらしい。
自律神経がどうにかなるらしいのだが、難しいことはよくわからない。
台風やら大型の低気圧やらが近づいてくると頭がモヤモヤし始め、時々こめかみがズキンとする。

予定のある日は頭痛薬でやり過ごすのだが、休みの日は諦めて1日ゴロゴロすることにしている。

半年ほど前もそんな日があり、布団から出ずにだらだらと過ごしていた。

ペットボトルや菓子パンを布団の周りに並べ、起きたりうとうとしたりすることを繰り返していた。

夢を見た。

懐かしさを感じるようなレトロな雰囲気の商店街だった。
並ぶ店の商品も行き交う人の格好も昭和のそれで、テレビの「昔を振り返る番組」を見ているみたいだった。

自分は田舎の出身で、昔はおるか今でも商店街なんてとこに足を踏み入れたことはない。
だから、この夢は自分の思い出ではない。

でも夢の中の自分は慣れた様子で商店街を歩いている。
馴染みらしい店主から声をかけられ会釈をしたり、店先に貼られたイベントのポスターを眺めたり、実にのんびりと散策を楽しんでいる風だった。


すると突然目の前の景色がぐにゃりと歪み、ぐるぐると渦を巻き始めた。


驚いて立ち止まり周りを確認する。

渦は縦長で電話ボックスぐらいだった。
でもその周辺は全くなんともなく、周りの人達も渦などないかのように普通に過ごしているように見える。

何だこれは?

夢とはいえさすがに気味が悪いので避けようと試みるが、渦は自分の進行方向へと移動してくる。
ならば引き返そうかと思ったが、気がつけば自分の背後はただ暗い空間が広がっているだけになっていた。


ささやかな抵抗として動かずにいると、渦のほうから近づいてきた。

「あっ」

こちらが恐怖を感じる前にあっという間に飲み込まれてしまった。



思わずつぶってしまった目を恐る恐る開けると、見慣れた近所の景色が広がっている。


ほっとしてから驚いた
夢を見ていたはずなのに、現実として自分は外に突っ立っていたのだ。


鍵は? スマホは? 自分は自分か?



どうやら普通に外出してきたらしい。

狐につままれたような気分で家に帰ると、さっきまで籠もっていたらしい布団が抜け殻のようにこんもりとしたまま残っていた。

なんだかよくわからなかったが、
もう頭痛はしていないので良しとすることにしよう。
ちょっと得した気分でその日は再び外へでた。



ただそれ以来、例の頭痛がすると現実世界であの【ぐるぐる】が見えるようになった。

まだ目の前に現れたことはないが、
ショーウィンドウに映る背後だったり
通り過ぎた路地の奥だったり
ちらちらと視界や意識の隅に現れる。

あの日は夢の中のから出てきたから次は現実から夢の世界へ行くのだろうか?
あの商店街にはちょっと興味はあるけれど、さすがに何の保証もないのに渦に入ってみる勇気はない。

なるべく頭痛が起きそうな日は早めに頭痛薬を服用するようにしている。

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異語り 夏瓜(かか)
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